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右肩上がりのROASのグラフと利益が増えない試算表を見比べる経営者のイメージ

ROASが高いのに儲からない理由:経営目線の費用対効果の見方

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費用対効果広告運用

ROASが高いのに儲からない理由:経営目線の費用対効果の見方

アドサプリ運営チーム2026.08.25
右肩上がりのROASのグラフと利益が増えない試算表を見比べる経営者のイメージ

「今月のROASは800%でした。好調です」。代理店の月次報告ではそう聞いている。それなのに、月末に試算表を見ると、広告を増やす前と比べて利益がほとんど増えていない。むしろ薄くなっている気さえする。報告が間違っているのか、自分の感覚が間違っているのか。ECや通販の経営者の方から、こうした相談を受けることがよくあります。

この場合、報告も感覚もどちらも間違っていないことがほとんどです。ROASという指標が「売上の倍率」であって「利益の指標」ではない、というだけのことです。ROAS(広告費用対効果)とは、広告費に対して何倍の売上が上がったかを示す数字で、売上÷広告費×100で計算します。広告費100万円で売上800万円なら、ROASは800%です。この定義のどこにも「利益」は登場しません。売上の倍率を報告されて、利益の話だと受け取ってしまう。ギャップはここから生まれます。

この記事の要点

  • ROASは広告費に対する売上の倍率。利益の指標ではないため、高ROASと黒字は別の話
  • 儲からない主因は、粗利率の未考慮、指名検索やリピーターの混入、返品・解約の未反映、広告費以外のコスト
  • 経営で使うなら、粗利率から逆算した「損益分岐ROAS」を自社で一度計算しておく
  • 報告のROASは「何の売上を、どの広告費で割ったか」の中身を確認して初めて意味を持つ

1. ROASの定義を噛み砕く:売上の倍率であって、利益ではない

ROAS800%は、一見すると「投資が8倍になって返ってきた」ように聞こえます。ここが最初の誤解ポイントです。8倍になっているのは売上であって手元に残るお金ではなく、売上には、商品の原価も、送料も、決済手数料も、まだ全部含まれたままです。

極端な例で確かめてみます。粗利率10%の商材で、広告費100万円、売上800万円、ROAS800%だったとします。売上800万円から得られる粗利は80万円。そこから広告費100万円を引くと、20万円の赤字です。ROASは800%という立派な数字のまま、広告をかければかけるほど赤字が積み上がる構造になっています。逆に粗利率の高い商材ならROAS300%でも十分に利益が出ることがあるので、つまり「ROASが何%なら良いのか」は自社の利益構造を通してしか判断できない数字なのです。構造の話です。

代理店がROASで報告すること自体は不誠実でも間違いでもなく、運用者の手元にあるのは管理画面上の売上データまでで、原価や粗利率は広告主の中にしかない情報だからです。問題はその数字を経営側が「利益の指標」として受け取ってしまうことにあるので、以降でROASと利益の間に横たわるギャップを4つに分解していきます。

2. 理由①:粗利率が考慮されていない

儲からない理由の1つ目は、いま見たとおりROASに粗利率が入っていないことですが、もう一歩踏み込むと、商品ごとに粗利率が違う場合は全体のROASがさらに当てにならなくなります。

たとえば粗利率60%の主力商品と粗利率15%の型落ちセール品を同じアカウントで販売しているとして、セール品は価格が安いぶん売れやすく、広告経由の売上を押し上げます。すると、全体のROASは立派な数字になっているのに、その中身は「利益の薄い商品ばかりが売れている」という状態が起こり得ます。どの商品・どのキャンペーンの売上でROASが構成されているか、内訳を見なければ、この偏りには気づけません。粗利率が商品によって大きく違う会社ほど、全体ROASという1つの数字で判断するのは危険です。

3. 理由②:「広告がなくても売れた分」が混ざる

2つ目の理由は、ROASの分子である「売上」に、広告がなくても発生していたはずの売上が混ざりやすいことです。代表例が指名検索です。指名検索とは、社名や商品名そのもので検索されることを指します。すでに自社を知っていて、買うつもりで検索している人が、たまたま最上部に出ていた広告をクリックして購入すると、その売上は広告の実績として計上されます。この人は広告がなくても、すぐ下の自然検索から同じように買っていたかもしれません。

リピーターにも同じ構造があります。過去に購入した顧客がリマーケティング広告(一度サイトを訪れた人に追いかけて表示する広告)経由で再購入すると、ROAS上は広告の成果です。ただ、その顧客はメールや検索からでも戻ってきた可能性があります。指名検索やリマーケティングはROASが高く出やすい配信で、これらの比率が大きいアカウントは、見かけのROASほど広告が新しい売上を生んでいない場合があります。広告業界ではこの「広告があったからこそ増えた分」を増分と呼んで区別する考え方がありますが、厳密な測定は簡単ではありません。

数字のイメージを添えておきます。全体のROASが800%でも、内訳が「指名検索ROAS2,000%・売上の8割」「一般検索ROAS235%・売上の2割」だったとしたら、見え方は一変します。粗利率30%の会社なら損益分岐は約333%(計算は第5章)ですから、一般検索の235%は「すれすれ」ではなく、はっきりと赤字です。全体の平均は、ROASの高い指名分にかさ上げされていて、新規顧客の獲得部分だけを取り出すと持ち出しになっている。そういう構造が隠れていることになります。

分けて見ること自体は難しくありません。キャンペーンが指名用と一般用に分かれていればその単位でROASを並べるだけですし、分かれていないなら、社名や商品名を含む検索語句を別のキャンペーンに切り出してもらえば済みます。少なくとも「新規獲得の採算」と「既存資産の刈り取り」を分けて眺めなければ、広告を増やすべきかどうかの判断はできません。

4. 理由③と④:返品・解約が反映されず、広告費以外のコストが外にある

3つ目の理由は管理画面上の売上が「注文された時点」の金額で計上されることが多い点で、その後の返品、キャンセル、定期購入の早期解約は多くの場合ROASには反映されません。注文と売上は別です。初回割引つきの定期通販のように、初回注文は取れても継続しなければ赤字になるモデルでは、注文時点のROASと実際の売上の差が特に大きくなりがちです。

4つ目の理由は、ROASの分母が「媒体に払った広告費」だけである点です。実際に広告経由で売るためにかかっているお金は、それだけではありません。月商800万円・広告費100万円のEC事業を例にすると、バナーとLP(広告のリンク先ページ)の制作に月10万円、代理店への運用手数料が広告費の20%で20万円、決済手数料が売上の3.5%で28万円、同梱物と送料が1件700円×800件で56万円。合計114万円が、広告費と同じくらいの規模でROASの外側に積み上がっています。分子は多めに、分母は少なめに。ROASという指標は、構造上「実態より良く見える」方向のズレを起こしやすいのです。

5. 経営で使うなら「損益分岐ROAS」を自社で計算する

ではROASをどう使えばよいのか。経営側でやるべきことは一つで、「うちの場合、ROASが何%を下回ると赤字なのか」という損益分岐点を自社の数字で計算しておくことです。これを損益分岐ROASと呼びます。計算の考え方の一例を示します。

式は1行です。損益分岐ROAS=100÷粗利率×100。粗利率50%なら100÷50×100で200%、粗利率30%なら約333%になります。言葉で考えても同じです。粗利率50%とは粗利が売上の半分ということなので、広告費と粗利がトントンになるのは売上が広告費の2倍になったとき、つまりROAS200%のときです。より実態に近づけるなら、粗利率の代わりに、売上から原価・決済手数料・配送費など販売に連動する費用をすべて引いた「実質利益率」を使います。

実質利益率(粗利率) 損益分岐ROAS
15%約667%
20%500%
30%約333%
40%250%
50%200%
60%約167%

売上100に対して原価55、決済・配送・手数料で15かかるなら実質利益率は30%で、この表のとおり損益分岐ROASは約333%になりますが、代理店の運用手数料を広告費側(分母)に足すか販売コスト側で引くかで数字が変わるため、社内で定義を一度決めておいてください。

冒頭の例に当てはめてみます。広告費100万円、売上800万円、実質利益率30%なら、売上から残る利益は240万円。ここから広告費100万円と、仮に20%の運用手数料20万円を引くと、手元に残るのは120万円です。ROAS800%という数字の印象に比べるとずいぶん現実的な金額に見えてくるはずですし、さらに指名検索の混入や返品を考慮すれば、実際の「広告が生んだ利益」はもう一回り小さい可能性もあります。逆に言えば、ここまで割り引いてなお黒字なら、その広告は自信を持って続けられます。

※ 自社の数字を当てはめてみて、思ったより余白がなかった方へ ― 実際の診断レポートのサンプル(無料)を用意しています。読み取り専用の権限をお預かりするだけなので、配信中の広告に手が入ることはありません。

この計算を済ませておくと、「ROAS800%です」という報告の受け取り方が変わります。自社の損益分岐が400%なら、800%はたしかに好調です。ただしそれは、ここまで見てきた指名検索の混入や返品の未反映がない前提での話です。損益分岐ROASに利益目標を上乗せした水準を代理店と共有すれば、運用側もそこに向けて配信を調整できます。管理画面側でこれを目標ROAS入札として実装する手順は「目標ROAS入札の設定と運用」に、商品ごとの粗利差をそのまま入札に反映させるやり方は「コンバージョン値と価値ベース入札」にまとめています。数値は考え方の例なので、自社の原価構造を当てはめて1回計算してみてください。

6. 代理店に確認する質問例と、次の一歩

最後に、報告されているROASの「中身」を確かめるための質問例を挙げます。責めるための質問ではなく、定義を揃えるための質問です。この温度感で聞けば、まっとうな代理店なら普通に答えてくれます。

  • 「このROASに、指名検索経由の売上はどれくらい含まれていますか」:指名と一般を分けたROASを出してもらうだけで、実態の解像度が大きく上がります。
  • 「キャンペーン別・商品別のROASの内訳を見せてもらえますか」:粗利率の低い商品に売上が偏っていないかを確かめられます。
  • 「売上は注文時点の金額ですか。返品やキャンセルは反映されていますか」:管理画面の売上と自社の実売上の差を把握するための質問です。
  • 「売上はクリックから何日以内の注文を数えていますか」:計測期間の設定で数字が変わるため、前提をそろえておくと月次比較がぶれません。

これらの質問に対して要領を得ない回答が続く場合や、そもそも管理画面の売上と自社の受注データが大きく食い違っている場合は、指標の議論より先に、計測と定義の点検が必要です。土台の計測が崩れていると、ROASも損益分岐の計算も砂上の楼閣になるからです。何から確かめればよいか分からないときは「広告の効果が分からないときの確かめ方」から始めるとよく、自社での点検が難しければ今の運用者とは別の実務者にアカウントと計測設定を見てもらう方法もあります。

なお、ここまでの話は「ROASを使うな」という意味ではありません。定義と中身を確認したうえでのROASは、月次の変化を追う指標として十分に役立ちます。経営側が損益分岐の水準を持ち、運用側が内訳を開示する。この分担ができれば、「ROASは高いのに儲からない」というすれ違いは、ほとんどの場合防げるはずです。分担の問題です。

※ 内訳の開示を待たずに中身を見たい方へ ― 月次の広告アカウント診断「アドサプリ」では、指名と一般の分離や計測のずれまで確認した診断レポートのサンプル(無料)をご覧いただけます。運用の受託を目的にしたものではないので、今の代理店との契約はそのままで構いません。

よくある質問

Q. 損益分岐点ROASの計算式を教えてください。

A. 式は「損益分岐ROAS=100÷粗利率×100」です。粗利率50%なら100÷50×100で200%、粗利率30%なら約333%、粗利率20%なら500%が損益分岐点になります。より実態に近づけるなら、粗利率の代わりに、売上から原価・決済手数料・配送費など販売に連動する費用をすべて引いた「実質利益率」を使ってください。代理店への運用手数料を広告費(分母)に足すか販売コスト側で引くかで数字が変わるため、社内で計算の定義を一度決めておくことが大切です。

Q. ROASは何%あれば合格と言えますか?

A. 一律の合格ラインはありません。業界平均や他社事例と比べるのではなく、自社の粗利率と販売コストから損益分岐ROASを計算し、それに利益目標を上乗せした水準を自社の基準にするのが、経営目線では最も実用的です。

Q. ROASとCPA、経営者はどちらを見るべきですか?

A. 商材によります。注文ごとに金額が大きく変わるECではROAS、問い合わせや資料請求など成果1件の価値がおおむね一定のBtoBやサービス業ではCPA(コンバージョン1件あたりにかかった広告費)が向いています。ただし、どちらも利益そのものを示す指標ではない点は共通です。ROASなら粗利率を、CPAなら1件あたりの粗利を掛け合わせて、最終的には利益ベースで判断することが大切です。

この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。

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