経営者が見るべき広告の数字は3つだけ:レポートの読み方最短コース
広告代理店の月次レポートは、20ページ近くになることがあります。表示回数、クリック率、インプレッションシェア、デバイス別の内訳。数字がずらりと並んだ資料を前に、結局まとめのページだけ読んで閉じている、という経営者の方は少なくありません。数字を見ていないことに引け目を感じている方も多いのですが、これは経営者側の怠慢というより、レポートが「経営判断のため」ではなく「運用報告のため」に作られていることの問題だと考えています。作りの問題です。
経営者が広告投資を判断するために見るべき数字は、3つだけです。①コンバージョン(CV、問い合わせや購入などの成果)数、②CPA(CV1件あたりにかかった広告費)、③広告経由の売上・商談への貢献。この3つを月に10分確認できれば「続ける・増やす・減らす」という判断には足りますし、残りの数字の大半は運用者が日々の改善作業に使うためのものであって、経営会議のテーブルに載せる必要はありません。
この記事の要点
- 経営判断に必要なのはCV数・CPA・売上貢献の3つ。残りの多くは運用者が使う「作業用の数字」
- CV数は「何をCVと数えているか」を一度確認すれば、あとは件数の推移を追うだけでよい
- CPAの良し悪しは業界相場ではなく、粗利やLTVから逆算した「許容CPA」との比較で決まる
- 3つ目の売上貢献はレポートの外にある。社内の受注データとの突き合わせで初めて見える
1. なぜ分厚いレポートを見ても判断できないのか
レポートに並ぶ表示回数、クリック率(CTR。表示された広告がクリックされた割合)、クリック単価といった数字は、いずれも運用者が改善作業のために使う「途中経過」の数字です。車にたとえるなら、エンジンの回転数や水温計にあたります。運転する人には必要でも、「目的地に近づいているのか」を知りたい同乗者が見るべきは、ナビに出る残り距離のほうです。経営者が知りたいのは「この投資は見合っているのか」であり、その問いに直接答える数字は、実はレポートの中に3つしかありません。
誤解のないように補足すると、レポートが分厚いこと自体は代理店の不誠実さの表れではなく、むしろ「やったことを漏れなく報告しよう」という真面目さの結果であることが多いです。ただ、運用者にとっての誠実な報告と、経営者にとっての判断材料は別物です。この食い違いを埋めるのは、レポートを全部読む努力ではなく、「うちはこの3つで判断します」とこちらから軸を示すことだと考えています。
先に全体像を置いておきます。以下、この表の3行を順に見ていきます。
| 数字 | 何を表すか | 良し悪しの判断 |
|---|---|---|
| ①CV数 | 広告経由で成果が何件とれたか | 何をCVと数えているかを一度確認したうえで、3カ月の傾向が下向きになっていないか |
| ②CPA | CV1件を得るのにかかった広告費 | 業界相場ではなく、自社の粗利から逆算した許容CPAの枠内に収まっているか |
| ③広告経由の売上・商談貢献 | 広告が実際にいくらの受注・商談を生んだか | 社内の受注データと突き合わせ、CV数の増減と受注額の増減が連動しているか |
2. 数字①CV数:何件とれたか。ただし「何を数えているか」を先に確認する
1つ目は、広告経由で成果が何件とれたかを示すCV数です。コンバージョン(CV)とは、問い合わせや購入、資料請求など「広告の成果として数える行動」のことで、最も基本的な数字ですが、件数を追い始める前に経営者が一度だけ確認しておくべき前提があります。「何をCVとして数えているか」、つまり成果の定義です。
たとえば「今月のCVは30件でした」という報告の内訳が、問い合わせ10件、資料ダウンロード15件、電話ボタンのタップ5件だったとします。この3つは、商談につながる確度がまったく違います。電話タップには誤タップが混ざることもあると言われますし、資料ダウンロードの多くはすぐに商談にはならないので、内訳を知らずに合計の30件だけを見ていると、「CVは増えているのに売上が増えない」という状態になっても気づけません。
定義が先です。定例の場で一度、「CVの内訳と、それぞれの定義を教えてください」と聞いてみてください。この質問に専門知識は要りませんし、まっとうな運用者なら歓迎するはずです。定義が妥当だと確認できれば、以降は件数の推移を追うだけで十分です。注意点を一つ挙げると、月のCVが10件に満たないような規模では、月ごとの増減に偶然のブレが大きく含まれます。1〜2カ月の上下で一喜一憂せず、3カ月程度の傾向で見るほうが判断を誤りにくくなります。
3. 数字②CPA:1件いくらか。許容CPAと突き合わせて読む
2つ目はCPAです。CPAとは、CV1件を得るのにかかった広告費のことです。広告費50万円でCV25件なら、CPAは2万円です。計算は簡単ですが、多くの経営者がつまずくのはその先、「CPA2万円は高いのか、安いのか」という判断のほうです。
ここで業界相場を調べにいく必要はありません。CPAの良し悪しは、自社の採算構造から逆算した「許容CPA」、つまり成果1件に対していくらまで広告費を使ってよいかの上限との比較だけで決まります。粗利や成約率、LTV(顧客生涯価値。1人の顧客が取引全体を通じてもたらす利益)から許容CPAを出す手順は「リード獲得単価の相場と許容CPAの逆算」にまとめました。ここから先は、その逆算を一度済ませた前提で、出てきた数字をレポートにどう当てるかの話をします。
当て方のコツは3つあります。1つ目は、比べる前に分母をそろえること。許容CPAを購入1件の粗利から出したのに、レポートのCPAが資料ダウンロードや電話タップまで含めた件数で割られていれば、比較そのものが成立しません。2つ目は、単月ではなく3カ月の平均で当てること。月ごとのCPAは競合の出稿状況や季節性で2〜3割ふつうに振れます。
3つ目が実務では一番効きます。超過したときに、超過を率ではなく金額に置き換えることです。許容CPA2万5,000円に対して今月が3万2,000円、CV22件なら、超えている分は7,000円×22件で15万4,000円。この一言があるだけで、代理店との会話は「CPAが高いですね」という感想から、「今月の超過15万円をどこで戻すか」という具体的な議論に変わります。逆に許容CPAの枠内に収まり続けているならその配信は削る対象ではなく増やす候補になりますし、何カ月も超過が続き打ち手も尽きている場合の出口については「広告をやめるとどうなる?縮小・停止を判断する基準と安全な下げ方」にまとめています。
4. 数字③広告経由の売上・商談への貢献:レポートの外で確かめる
3つ目は、広告がいくらの売上・商談を生んだかです。実はこの数字、代理店のレポートには載っていないことが多いです。レポートで追えるのは多くの場合「フォーム送信」や「注文完了」までで、その先の商談化、受注、キャンセルや返品といった情報は、自社の中にしかデータがないからです。つまりこの数字だけは、レポートを読むのではなく、社内データと突き合わせて自分たちで作る必要があります。読む数字ではありません。
やることは月に1行で構いません。BtoBなら、広告経由の問い合わせのうち商談になった件数と受注額を、営業の記録やCRM(顧客管理システム)で確認する。ECなら、キャンセル・返品を反映した実際の受注額を広告経由の売上と照らす。「今月の広告経由受注は3件・420万円」という1行が書ければ十分で精緻な分析は要りませんし、問い合わせフォームに「何を見て知ったか」の欄を足すだけでも、突き合わせの精度は上がります。
この1行を続けると、レポートだけでは見えない問題が浮かびます。典型例が「CV数は好調なのに受注が増えない」というケースで、これは広告の量ではなく質、つまりどんな人を連れてきているかの問題ですし、逆にレポート上のCPAはやや高くても受注単価が大きく、十分に採算が合っていたという発見もあります。そもそも広告の成果が売上につながっているのか追えていない、という段階の方は、「広告の効果が分からないときの確かめ方」から着手してみてください。
※ 「CV数は伸びているのに受注が増えない」の答え合わせは、アカウントの中を開かないと進みません。実際の診断レポートのサンプル(無料)を用意しています。お預かりするのは読み取り専用の権限だけなので、いまの配信に手は加わりません。
5. CTRや表示回数を経営会議で議論しないほうがよい理由
ここまでの3つに、レポートの主役級であるCTRや表示回数が入っていないことを、意外に思われたかもしれません。外しているのには理由があります。これらは「CVを増やすための途中経過」の数字だからです。CTRが2%から3%に上がったという報告は、それ自体は良い変化ですが、「投資は見合っているか」という経営の問いには答えません。CTRが上がってもCPAが許容を超えていれば投資判断は変わりませんし、CTRが平凡でも許容CPA内でCVが積み上がっていれば、経営上の問題はありません。
もう一つの理由は、会議の質です。経営会議で表示回数やCTRの増減を議論し始めると、話が運用の細部に流れ、「で、儲かっているのか」という本題に戻れなくなります。獲得を目的とした広告において、「表示回数が増えました」は成果の報告ではなく、費用が使われたことの裏返しでもあります。議題を3つの数字に絞ると、代理店側の報告も自然と意思決定に使える形へ変わっていきます。議題で決まります。
なお、ブランドの認知を広げること自体を目的とした広告であれば表示回数にも意味はありますが、問い合わせや売上を目的に出稿しているなら、判断軸は獲得の数字に置くのが自然です。用語の意味を知っておきたい場面には、「広告レポートの用語をやさしく解説した用語集」を手元に置いてもらえれば足ります。
6. 月10分のチェック習慣と、数字が信用できないときの選択肢
最後に、3つの数字を習慣に落とし込む方法です。月に一度、レポートが届いたら次の3行をメモするだけです。①CV数は先月比で増えたか減ったか、②CPAと許容CPAの差はいくらか、③広告経由の受注額は社内データで実額いくらか。慣れれば10分で終わります。書き方の例を挙げると、「CV22件(先月28件から減)/CPA2万3,000円(許容2万5,000円の枠内)/広告経由の受注20件・160万円(客単価8万円、キャンセル2件を除く)」。数字の後ろに括弧で前提を1つ添えておくのがコツで、半年後に読み返したときに自分で意味を再現できます。
この3行が半年並ぶと、それはそのまま2種類の社内資料になります。半年分が武器になります。1つは予算増額の稟議です。「許容CPA2万5,000円に対して6カ月連続で枠内、広告経由の受注は月平均18件・144万円」と書ければ、増額を通すための材料としてはほぼ足ります。もう1つは代理店との更新交渉です。手数料や体制が妥当かどうかは、レポートの厚さではなく、この半年分の記録が示す推移を並べて話すほうが早く片づきます。定例や報告の場での質問も「許容CPAに対して今月はどうだったか」「来月の打ち手は何か」の2つで足り、この2つに具体的に答えられる運用者なら、細かい数字は任せてよいと考えています。
この習慣を続けるうちに「3つの数字がどうも信用できない」と感じる場面が出てくるかもしれず、CVの定義を聞いても要領を得ない、レポートの数字と社内の受注実績がかけ離れている、といった場合です。そのときに必要なのは、数字を読み解く努力ではなく、計測と定義の点検です。CVが二重に計上されている、そもそもタグが動いていないといった話は珍しくなく、確認の勘所は「コンバージョンが計測されていないときの確認手順」にまとめています。計測が崩れたまま数字を眺めても、判断を誤る材料が増えるだけです。土台から見ます。自社での確認が難しければ、今の運用者とは別の実務者にアカウントの中身を見てもらい、数字の土台から確かめるという選択肢があります。3つの数字は、信用できる計測の上に置かれて初めて、経営判断の道具になります。
※ 土台から確かめたい方へ ― 月次の広告アカウント診断「アドサプリ」では、CVの定義と計測から順に点検した診断レポートのサンプル(無料)をご覧いただけます。運用の受託を前提にしたものではないので、今の代理店を替える必要はありません。
よくある質問
Q. 広告の専門用語がまったく分かりませんが、この3つだけで本当に判断できますか?
A. 「続ける・増やす・減らす」という経営判断には足ります。CTRや品質スコアといった用語は運用者が改善作業に使うもので、経営者が覚える必要はありません。会議で分からない用語が出たら、「それはCV数とCPAにどう影響するのですか」と聞き返せば、議論を3つの数字に戻せます。この質問に答えられない説明は、経営判断の材料になっていないということです。
Q. 代理店のレポートにCPAや広告経由の売上が載っていません。どうすればよいですか?
A. CV数とCPAはレポートに含めるよう依頼して問題ありません。広告の管理画面に標準で表示される指標のため、対応が難しいことは考えにくいです。広告経由の売上・商談への貢献は、代理店側だけでは分からないことが多く、自社の受注データとの突き合わせが必要になります。月に一度、営業やEC担当に広告経由の受注額を確認する運用から始めてみてください。
この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。
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