小規模ECが初めて広告を出すとき:ショッピング広告の準備と、赤字にならない上限の出し方
「広告を出せば売れると聞いたのですが、うちは商品が8点しかなくて」。ハンドメイド雑貨や食品を扱う小さなネットショップの方から、この形の相談をよく受けますが、多くの場合、すでに1カ月ほど試して数万円を使い、注文が1件か2件で止まっている状態です。
小規模ECの広告は、大手のやり方をそのまま縮小しても成り立ちません。商品点数が少なく、在庫に限りがあり、粗利の絶対額が小さいという3つの制約が同時にかかるからです。この記事では、その制約を前提にした始め方と、赤字にならない広告費の上限を自分で計算する手順をまとめます。キャンペーン構成やP-MAXの組み方といった設計の詳細は「EC・D2CのGoogle広告構成」にありますので、そちらに譲ります。
この記事の要点
- 商品点数が少ないECは、一般的なカテゴリ語では勝負にならない。指名検索と商品名検索から始める
- ショッピング広告にはGoogle Merchant Centerと商品フィードが要る。用意する項目は多くない
- 上限CPAは粗利から逆算する。送料の自社負担と決済手数料を引いてから半分にするのが安全な出発点
- 在庫が限られる商品は、売り切れたら配信を止める仕組みまで作らないと広告費が捨てられる
1. 商品点数が少ないECの制約
広告の世界では、商品点数の多さがそのまま武器になります。数千点の在庫があれば、どれか1つは誰かの探しものに当たります。8点しかないショップは、その当たりくじの束を持っていません。
これが具体的にどう効くか。1つ目は、拾える検索の幅が狭いことです。「ギフト おしゃれ」のような広い語で配信しても、その人が探しているものが自店の8点の中にある確率は低く、クリックの大半が離脱で終わります。2つ目は、機械学習にデータが集まらないことで、P-MAXやショッピング広告は商品ごとの成績を見て配分を変える仕組みなので、点数が少ないと比較の材料自体が足りません。3つ目は、在庫の制約です。1点ものや小ロットの商品で配信し、売り切れた後も広告が回り続けると、その日の予算は在庫のない商品ページに流れます。
制約を裏返すと、やることは絞られます。狭くて確度の高い検索から取る。在庫と広告の連動を作る。そして粗利の中で広告費が収まる範囲を先に決めておく。
2. ショッピング広告に必要なものを、順に用意する
検索結果に商品写真と価格が並ぶ形式の広告を、ショッピング広告と呼び、ECでは検索広告より成果が出やすいことが多い一方、始めるための準備が少しだけ多いです。
| 用意するもの | 中身 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| Google Merchant Centerのアカウント | 商品情報をGoogleに預けておく場所。無料で開設できる | サイトの所有権の確認が必要 |
| 商品フィード | 商品名・価格・画像・在庫状況などを並べた一覧データ | 画像の規定違反や価格の不一致で審査に落ちる |
| サイト側の必須表記 | 送料・返品条件・特定商取引法に基づく表記・問い合わせ先 | 記載漏れがあるとアカウントが停止されることがある |
| 購入の計測 | 購入完了ページで購入金額を送る設定 | 金額が送られていないと費用対効果が計算できない |
商品フィードという言葉が難しく聞こえますが、中身は表計算ソフトの一覧表と同じで、1行に1商品、列に商品名、説明、価格、在庫の有無、JANコードなどの商品識別コード(GTIN)、画像のURL、商品ページのURLが並びます。BASE、STORES、Shopify、カラーミーショップなどの主要なカートには連携機能やアプリが用意されているので、自分でファイルを作る場面は多くありません。カートの管理画面から接続すれば、在庫や価格の変更が自動で反映される形になります。
Merchant Centerの管理画面は、新しいバージョンへの移行が進められてきました。Googleのヘルプでは全小売業者のアップグレードが案内されており、これから開設するアカウントは新しい画面から始まります。画面の名称や場所が解説記事と違って見える場合は、この移行が理由のことが多いです。
審査で止まる原因は、経験上ほぼ決まっています。サイトに送料の記載がない、返品条件が書かれていない、フィードの価格と商品ページの価格が違う、画像にロゴや宣伝文字が入っている。4つだけです。これを先に潰しておくと、審査の往復が減ります。
3. どの検索から買うかの優先順位
小規模ECで最初に押さえるのは、店名と商品名です。地味に見えますが、ここが成立の分かれ目になります。
店名の検索は、すでに自店を知っている人の行動です。SNSで見た、雑誌に載っていた、以前買ったことがある。この人たちのクリック単価は安く、購入率は高い。ただし、モール出店や卸をしている場合、自店名で検索したときに上位に出るのがモールのページということがあり、その場合は同じ注文が手数料つきで入ることになります。指名検索に広告を出すかの判断は「ブランド指名キーワードに広告を出すべきか」に整理しました。
次が商品名や型番、素材名を含む具体的な検索です。「信楽焼 マグカップ 大きめ」「アカシア 木製 プレート 楕円」「無添加 いちごジャム 瓶」のように、探すものが決まっている人の検索がここに入ります。点数が少ないショップでも、自店の商品を言い当てている語なら十分に戦えます。
最後が、広いカテゴリ語や用途語です。「食器 通販」「プレゼント 女性 30代」といった語は検索量が大きい代わりに、購入までの距離が遠く、次の章の計算で見るとおり、小規模ECの粗利ではこの層の広告費を吸収できないことがほとんどです。最初は入れないでください。
※ これから出す方、出したばかりの方へ ― 最初に組んだ語と予算の置き方が粗利で吸収できる層に向いているかは、配信が始まった直後の数字でも外から確かめられます。実際の診断レポートのサンプル(無料)を用意しています。
4. 赤字にならない上限を計算する
広告を始める前に出しておく数字が1つあります。1件の注文を取るために払える広告費の上限です。これを持たずに配信すると、売れているのに現金が減るという状態に気づけません。
商品単価6,800円のショップで計算します。原価率が45%なら、粗利は6,800円×0.55=3,740円。ここから送料の自社負担分500円と、決済手数料3.5%ぶんの238円を引くと、3,740円-500円-238円=3,002円が、1件の注文で手元に残る金額です。
この3,002円を全部広告に使ってしまうと、梱包資材も人件費もサイト費用も出ません。目安として半分を上限にすると、1,501円。切りよく1,500円を上限CPA(CV1件あたりにかかった広告費)と置き、ROAS(売上÷広告費×100)に直すと、6,800円÷1,500円×100=約453%が目標になります。
この1,500円という上限を、実際の検索に当てはめます。
| 検索の種類 | クリック単価 | 購入率 | 1件あたりの広告費 |
|---|---|---|---|
| 店名・商品名の指名 | 35円 | 4.0% | 875円(上限内) |
| 商品名・型番・素材名 | 60円 | 3.0% | 2,000円(わずかに超過) |
| 広いカテゴリ語 | 90円 | 0.8% | 11,250円(大幅超過) |
広いカテゴリ語では、1件の注文に11,250円かかる計算です。上限の7倍以上です。ここに予算を使えば使うほど赤字が積み上がります。真ん中の商品名検索は2,000円で、上限をわずかに超える位置で、この層を黒字側に寄せるには、購入率を60円÷1,500円=4.0%まで引き上げるか、次の章で扱う客単価の引き上げが要ります。逆に言えば、手の届く範囲にあるということでもあります。
ただし、この上限は初回購入だけで見た数字です。リピートのある商材なら、話が変わります。1人の顧客が年内に平均1.5回買うなら、1顧客あたりの手残りは3,002円×1.5=4,503円。その半分を上限にすれば2,250円まで払えます。リピート率が読めるようになるまでは初回基準で守り、実績が見えてから緩めるのが安全な順序で、ROASと利益がずれる理由は「ROASが高いのに儲からない理由」でも扱っています。
5. 送料無料ラインと初回オファーの効き方
前章の計算で分かるとおり、小規模ECの広告を成立させる一番強いレバーは、客単価です。1件あたりの手残りが増えれば、払える広告費も増えます。
送料無料ラインは、その代表的な手です。単価6,800円の商品に対して「8,000円以上で送料無料」と置くと、あと1,200円ぶんの買い足しが起き、送料500円を自社が負担する代わりに、1注文の売上が上がる構図です。ラインの置き方には経験則があり、実務では平均客単価の1.2倍前後を目安に置くケースをよく見ます。低すぎると効かず、高すぎると諦められるので、実際には自店の平均客単価に近い切りのよい金額から置いてみて、1注文あたりの点数と金額がどう動いたかを見ながら上下させることになります。
初回オファーも同じです。ただし、割引額をそのまま広告費の一部として計算に入れてください。初回500円引きなら、手残りは3,002円から2,502円に下がり、上限CPAは1,251円に落ちます。オファーと広告費は、同じ財布から出ています。
もう1つ、在庫と広告の連動も客単価と同じくらい効きます。カート側とフィードの連携が正しく動いていれば、在庫がゼロになった商品は自動的に配信から外れます。手動でフィードを更新している場合、この反映が遅れて、売り切れた商品の広告に予算が流れ続けることがあり、在庫連動が効いているかは、初月のうちに一度確かめておく価値があります。
6. 続けるかどうかを決めるまで
初めて広告を出すECショップに勧めているのは、いきなり最適化に手を出さず、判断材料を作る期間を先に置くことです。指名と商品名だけで、上限CPAを守れる範囲で1カ月から2カ月。この間に見るのは、注文が何件入ったかよりも、1件あたりの広告費が上限の内側に収まったかどうかです。
収まったなら、そのまま予算を少しずつ増やせます。収まらなかったなら、原因は3つのどれかです。商品ページで購入までの障害があるか、価格や送料が競合に対して不利か、そもそも検索で探される商品ではないか。3つ目だとしたら、リスティング広告以外の集客に予算を回す判断が正解になります。
難しいのはここからです。管理画面のどの数字を見れば購入率の低さがページ側の問題だと言えるのか、フィードの警告のどれが配信を止めているのか、除外が足りているのか。ここは慣れの要る領域で、ショップの運営と発送作業をしながら身につけるには時間がかかります。カート会社のサポートは広告の中までは見てくれませんし、代理店に頼むには月の広告費が小さすぎる、という規模の方も多いはずです。
見てもらうときに渡すのは、読み取り専用(閲覧のみ)の権限だけで足り、カートやフィードの設定に手を入れることはありませんし、いまの制作会社や発送の体制もそのままです。頼み方も「売上を伸ばしてほしい」ではなく、「上限CPA1,500円で回せているか、超えているならどこで超えているかを見てほしい」と、自分で出した数字を添えて渡すほうが、返ってくる答えが具体的になります。
上限を計算するところまでは、誰でも自分でできます。詰まるのは、その上限を超えた月に何を止めるかの判断です。上限を超えた原因がページなのか語なのか商品そのものなのかを、広告を触り始めたばかりの人が管理画面から切り分けるのは、経験の量がそのまま効いてしまう作業です。8点しかない商品でも、その8点が探される言葉で探されているなら広告は成立しますし、成立しているかどうかの判定だけを外に預けると、続けるか止めるかの決断が早くなります。
※ 自分で出した上限CPAを守れているか確かめたい方へ ― アカウントと商品フィードの状態から、超過している場所を特定できます。診断レポートのサンプル(無料)をご覧ください。
よくある質問
Q. 月の予算はいくらから始めるのが現実的ですか?
A. 上限CPAから逆算してください。上限が1,500円で、判断材料として注文が10件ほしいなら、1万5,000円ぶんは使う計算になります。実際には上限どおりに収まらないので、その1.5倍から2倍、月3万円前後を初月の枠と置く方が多いです。金額よりも、その枠で何件の注文が入り、1件あたりいくらだったかを記録することのほうが価値があります。
Q. ショッピング広告と検索広告は、どちらから始めるべきですか?
A. 商品が写真で伝わるものならショッピング広告からです。価格と写真が検索結果に出るので、買う気のない人のクリックが減り、限られた予算が守られます。一方、贈答用の詰め合わせやオーダー品のように、説明がないと価値が伝わらない商品は検索広告のほうが合います。両方を出す余力がないうちは、扱う商品の性質で選んでください。
この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。
実際のカルテ(サンプル)をその場でダウンロード
ご入力後、その場でサンプル(PDF・一部抜粋)をダウンロードできます。まず中身を見たい方向けです。
