季節性の強いビジネスの広告設計:年間予算の配分と、山の前に点検すること
前年の売上グラフを月別に並べると、3月に富士山のような山が立っている。5月から9月まではほぼ平ら。引越し、冷暖房設備、受験関連、イベント、行楽施設。こうしたビジネスの経営者が持っているグラフは、たいていこの形をしています。ところが広告の予算表を見ると、月ごとに同じ金額が並んでいて、年間予算を12で割った数字が、そのまま毎月の枠になっているケースは驚くほど多いです。
需要が3倍になる月と半分になる月に、同じ金額を置く理由はどこにもありません。むしろ、山の月に足りず、谷の月に余るという最悪の配分になります。この記事では、需要の山谷を前提にした年間の予算配分、繁忙期にクリック単価が上がる仕組み、閑散期に止めるかどうかの判断、そして山の前に確認しておく項目を整理します。月中の使い方の管理そのものは「広告費の予実管理」に譲ります。
この記事の要点
- 年間予算は12等分せず、前年の需要指数で配分する。山の月に3倍近く寄せる形になる
- 繁忙期はクリック単価が上がるが、購入率も上がるためCPAはむしろ下がることがある
- 閑散期に全停止すると、学習データと指名検索の受け皿を同時に失う。細く残すのが基本
- 立ち上げは山の3週間から4週間前。当月に入ってからでは検索の多くが終わっている
1. 山谷のあるビジネスで広告が難しくなる理由
季節性の強い事業の広告には、通年型の事業にはない事情が3つあります。
1つ目は、失敗を取り返す機会が年に一度しかないことです。通年型なら、今月うまくいかなくても来月に修正できます。3月に売上の4割が集中する事業では、3月の設定を間違えたと気づくのが月末だったとして、同じ条件でやり直せる次の機会が来るのは12カ月後になります。一発勝負です。事前の点検の価値は、そこから来ます。
2つ目は、自動入札との相性です。機械学習は過去のデータから傾向を読みますが、需要が急に3倍になる局面は過去のどこにもありません。山の入口で配信が伸び悩む、あるいは予算に対して入札が慎重すぎる、という現象が起きやすいのはこのためです。
加えて、季節ビジネスには供給側の上限があります。3月に工事の予約枠が埋まったら、その後の問い合わせは受けられません。広告を止めるべきか、止めずに翌月へ回すか。通年型の事業には出てこないこの判断が、山の途中で持ち上がるので、あらかじめ「枠が埋まったら日予算を何割に落とす」と決めておくと、当日の判断が軽くなります。
3つ目は、競合も同じ時期に予算を投じてくることです。引越し業界では3月下旬が繁忙期のピークとされ、同じ商圏の同業が全員この時期に張るので、オークションは1年で最も激しくなります。ピークの正確な位置は、前年の自社の受注日別データで確かめるのが確実です。
2. 年間予算を需要の形に合わせて配分する
やり方は単純です。前年の売上か問い合わせ件数を月別に並べ、月平均を1.0とした指数を作ります。その指数の比率で年間予算を割り振ります。
年間600万円の広告予算を持つ設備工事の会社で計算します。12等分なら月50万円です。ここに需要指数を掛けます。指数の合計が12.0になるように作れば、各月の予算は50万円×その月の指数で出ます。
| 月 | 需要指数 | 配分後の予算 | 12等分との差 |
|---|---|---|---|
| 2月(立ち上げ) | 1.2 | 60万円 | +10万円 |
| 3月(山) | 2.6 | 130万円 | +80万円 |
| 4月(山の後半) | 1.8 | 90万円 | +40万円 |
| 8月(谷) | 0.6 | 30万円 | -20万円 |
3月に130万円、8月に30万円。同じ年間600万円でも、置き場所がまるで違います。この配分で作った表を見て「3月だけで年間予算の2割を使うのか」と驚く方は多いのですが、その月に年間売上の2割から3割が発生しているなら、比率としては合っています。
月の中でも需要は平らではありません。3月の130万円を31で割って日予算を置くと、月末の駆け込みに枠が足りなくなるため、前年の日別の問い合わせ件数が取れるなら、月内も同じ考え方で山に寄せてください。日別が取れない場合でも、上旬・中旬・下旬の3つに分けて重みを変えるだけで、取りこぼしはかなり減ります。
指数を作るときの注意が1つあります。前年の売上をそのまま使うと、前年の広告配分の癖まで引き継いでしまいます。前年に8月へ広告費を厚く置いていたなら、8月の売上はその影響を含んでいます。可能なら、広告以外の経路も含めた総需要に近い数字、たとえば問い合わせ総数や検索の指名数を使うほうが素直な指数になります。
3. 繁忙期にクリック単価が上がる仕組み
山の月には、クリック単価がまず上がります。理由は、広告の掲載枠が増えないのに入札する側が増えるからで、オークションの参加者が増え、各社の予算も上がるので、同じ掲載位置を取るために必要な入札額が押し上げられます。
ここで多くの方が身構えるのですが、判断すべきはクリック単価ではなくCPA(CV1件あたりにかかった広告費)であり、繁忙期には、検索している人の購入意欲そのものも高くなっています。数字で確かめます。
| 項目 | 閑散期 | 繁忙期 |
|---|---|---|
| クリック単価 | 90円 | 150円(1.67倍) |
| 問い合わせ率 | 2.0% | 3.5% |
| CPA | 4,500円 | 約4,286円 |
クリック単価は67%上がっているのに、CPAはむしろ下がっています。90円÷2.0%=4,500円、150円÷3.5%=約4,286円。買い手が集まる時期は、売り手にとっても効率の良い時期だということです。「単価が高いから繁忙期は控える」という判断は、クリック単価だけを見て問い合わせ率を見ていないときに出てくるもので、いちばん効率の良い時期に自分から降りることになります。
もちろん、いつもこの形になるとは限りません。競合が一斉に増える結果、単価の上昇が問い合わせ率の上昇を上回る年もあります。掲載機会をどれだけ取り逃しているかは「インプレッションシェアの読み方」の指標で確認できますし、だからこそ山の期間中は週単位でCPAを見て、上限を超えたら配分を戻すという運びが要ります。
厄介なのは、その判断を下す週が、事業のいちばん忙しい週とぴったり重なることで、工事も接客も問い合わせ対応も同時に走っている最中に、管理画面を開いて予算と入札の当たりを付ける。しかも年に一度しかない山の最中に、初めてその作業をやることになる会社は少なくないので、入る前に済ませられる点検を入る前に済ませておく理由は、ここにあります。
※ 今年の繁忙期に入る前に設定を確かめたい方へ ― 前年の設定が残っていないか、予算と入札が山に耐えられるかは、事前に見れば直せます。実際の診断レポートのサンプル(無料)を用意しています。
4. 閑散期に広告を止めるべきか
谷の月に止めたくなります。需要がないところに広告を出しても仕方がない、という理屈にも一理あります。ただし、止めることで失うものが3つあります。
1つ目は、自動入札の学習データです。配信を長期間止めると、再開時に学習が最初からやり直しになります。学習期間の目安と挙動は「Google広告の学習中はいつまで」に整理しましたが、山の直前に学習期間が重なるのは最も避けたい形です。
2つ目は、指名検索の受け皿です。閑散期でも、自社名で検索してくる人はいます。前年に依頼した人、紹介を受けた人、看板や車体広告を見た人。この人たちは最も成約率の高い層で、ここを空けると比較サイトや競合の広告に持っていかれます。
3つ目は、再開時の審査と初期挙動です。長く止めたキャンペーンを繁忙期の直前に再開すると、広告の審査や配信量の立ち上がりに数日かかることがあり、山の1日目から全力を出せない、という事態は避けたいところです。
現実的な運びは、全停止ではなく細く残すことです。指名検索と、成約率の高い主要キーワードだけを残し、日予算を通常の2割から3割まで落とす。これで学習の連続性と受け皿を保ちながら、費用は大きく圧縮できます。縮小と停止の判断基準そのものは「広告をやめるとどうなる?」でも扱っています。
5. 前倒しの立ち上げとデータの引き継ぎ
山に間に合わせるには、需要のピークより前に配信を立ち上げます。目安は3週間から4週間前です。
理由は2つあります。1つは検索行動のタイミングで、引越しの見積り、エアコンの入れ替え、受験の申し込み。どれも実行日の数週間前に情報収集が始まります。実行日に合わせて広告を出すと、探し終わった人にだけ広告を見せることになります。もう1つは自動入札の立ち上がりで、新しいキャンペーンや大きく変更したキャンペーンが安定するまでには日数がかかり、その助走を山の初日から始めると、いちばん需要の濃い最初の1週間を学習に使ってしまいます。山の初日に安定した状態で入りたいなら、逆算して前倒しするしかありません。
前倒しで立ち上げるとき、毎年新しいキャンペーンを作り直すかどうかで迷う方が多いです。原則は、作り直さないことです。同じキャンペーンを残して日予算と入札目標だけを変えるほうが、過去のデータを引き継げますが、名称にその年の年号を入れて毎年作り直す運用をしている場合、毎年ゼロからの学習になっています。
例外は、商材や訴求が前年と大きく変わった場合です。それでも、キャンペーンごと捨てるのではなく、広告グループを追加して切り替えるほうが被害が小さく済みます。
山を降りるときの手順も、決めておくと楽になります。ピークを過ぎた翌週に一気に停止すると、まだ残っている需要を落とすので、2週間から3週間かけて日予算を段階的に下げ、指名検索と主要キーワードだけを残す形に着地させる。この降り方を決めておけば、翌年の閑散期の設定がそのまま出発点になりますし、前年に何をどの順で下げたかを1枚のメモに残しておくと、翌年の作業が半分になります。
6. 山の前に点検する項目
年に一度の勝負に入る前に、確認しておきたいことがあります。実務で使っているチェックの並びを挙げます。
| 確認する場所 | よくある事故 |
|---|---|
| コンバージョンの計測 | 昨年のサイト改修でタグが外れ、CVが記録されていない |
| 日予算とアカウント予算の上限 | 前年の閑散期に下げた日予算がそのまま残っている |
| 入札の目標値 | 目標CPAが閑散期基準のままで、繁忙期に配信が伸びない |
| 広告文とリンク先 | 前年のキャンペーン名や終了した特典が残っている |
| 支払い方法 | カードの限度額に当たり、ピーク日に配信が止まる |
| 問い合わせの受け口 | 電話が繋がらず、増えた問い合わせを取りこぼす |
最後の行は広告の外の話です。それでも季節ビジネスでは実際に起きます。広告が想定どおりに動いた結果、電話が鳴り続けて出られなくなり、機会を落とす。山に入る前に、受け口の人員まで含めて確認しておく価値があります。
この点検を自分でやろうとすると、忙しい時期の直前に管理画面と数時間向き合うことになりますし、見るべき場所は、日常の運用では触らない設定に集中しています。支払い設定、アカウント全体の予算上限、前年の残骸。日々レポートを見ているだけでは表に出てこない部分です。代理店に任せている場合でも、担当者が今年から替わっていれば前年の経緯を知らないことがあります。
年に一度の山の前だけ外の目を入れる、という使い方は、季節ビジネスと相性がいいと感じています。読み取り専用(閲覧のみ)の権限だけで確認は完結しますし、繁忙期の配信を止める必要も、いまの代理店を替える必要もありません。頼み方は「今年うまくいくか見てほしい」ではなく、「繁忙期に入る前に、前年の設定が残っていないか、予算と入札が山の規模に耐えられるかを見てほしい」と、時期と目的を添えるほうが答えが具体的になります。
山が来る日は、カレンダーの上ではもう決まっています。予算を12で割った表を需要の形に置き換えるところまでは、前年の数字さえあれば自社でできます。できないのは、その配分を受け止める設定が去年のまま止まっていないかの確認で、日常の運用では開かない場所ほど残骸は残ります。年に一度の山の前に、そこだけ外の目を通しておく。この一手間が、取り返しのつかない1年を減らします。
※ 山の前の点検を外の目に任せたい方へ ― 前年の残骸や予算上限の見落としは、事前に洗い出せます。診断レポートのサンプル(無料)で確認できる範囲をご覧ください。
よくある質問
Q. 繁忙期だけ予算を3倍にすると、自動入札が混乱しませんか?
A. 一気に3倍にすると、配信量の急増に学習が追いつかず不安定になることがあります。段階的に上げてください。山の4週間前から週ごとに3割ずつ増やしていけば、4週間で約2.9倍に届きます。目標CPAを触る場合も同じで、予算と目標値を同時に大きく動かすのは避けたほうが安定します。前年の実績があるなら、その月のCPA実績を目標値の出発点にすると外しにくいです。
Q. 閑散期に細く残す場合、月いくらまで落としてよいですか?
A. 金額よりも件数で考えてください。自動入札を使っているなら、Googleの目標CPAの目安は直近30日で30件なので、季節性のある事業でも月に十数件は下回らない水準を保ちたいところです。それを下回るなら、無理に自動入札を続けるより、指名検索だけを手動に近い設定で残すほうが挙動が読めます。目安として繁忙期の2割から3割の日予算に落とし、指名と主要キーワードに絞る形が扱いやすいです。谷の期間が半年を超えるような事業では、LP(広告のリンク先ページ)や広告文の改善にその時間を使うほうが投資として効きます。
この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。
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