目標CPAを初めて決める:粗利から逆算する計算手順
目標CPAは、商品の粗利に成約率を掛けて「上限」を出し、その6〜7割に置くのが最初の答えです。粗利60,000円、問い合わせからの成約率20%なら上限は12,000円、目標CPAはおよそ7,200〜8,400円になります。この数字は電卓と社内の2つの数字があれば10分で出せますし、出した数字が合っているかどうかは、3か月後に実績と並べれば分かります。
難しいのは計算そのものではなく、計算に入れる数字の出どころです。粗利率を経理に聞くと「商品によって違う」と返ってきますし、成約率は営業担当の体感と管理表で2倍近くずれていることも珍しくありません。だから最初の目標CPAは、精度の高い1つの数字ではなく「この範囲に収まっていれば赤字にならない」という幅として持つことになります。CPA(CV1件あたりにかかった広告費)を自動入札に渡す時点で手元に要るのは、冒頭の7,200〜8,400円のように、粗利と成約率まで遡って説明できる幅です。
この記事の要点
- 上限CPA=1件あたり粗利×成約率。目標CPAはその6〜7割が出発点
- 必要なのは1件あたりの粗利と成約率の2つだけで、どちらも社内で確認できること
- 自動入札に渡すなら、月30件前後のCVが見込める予算かを先に確かめる。Google広告のヘルプも評価には30日間で30件以上を推奨している
- 最初の数字は仮置きでよい。3か月の実績で成約率を更新する
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サンプルを見る(無料・その場でダウンロード)1. 目標CPAが先にないと、何が起きるか
広告を始めたばかりの担当者が最初につまずくのは、レポートに出てくるCPA 9,800円という数字が、良いのか悪いのか判断できないことです。前月比で下がっていれば安心し、上がっていれば焦る。比べる相手が前月しかないので、そもそも9,800円で商売が成り立っているのかが分からないまま、増額や停止の判断を迫られます。
比べる相手が要ります。それが目標CPAです。
上司から「このCPAで大丈夫なのか」と聞かれて、前月より12%下がりました、としか答えられない状況を思い浮かべてください。聞かれているのは変化率ではなく、1件9,800円で問い合わせを買い続けて会社に利益が残るかどうかです。その問いに答える材料は管理画面にはなく、商品の粗利と営業の成約率という、広告の外にある2つの数字から作るしかありません。
目標CPAがないと起きる失敗は2つあり、1つは「安いCPAを追って、成約しない問い合わせばかり集める」こと、もう1つは「予算が余っているのに、CPAが怖くて配信を絞り続ける」ことです。どちらも、1件の問い合わせにいくらまで払えるかが決まっていないから起きます。自動入札の目標コンバージョン単価(tCPA、ヘルプでは「目標アクション単価」と表記されることもあります)を使うなら、この数字をそのまま機械に渡すことになるので、根拠のない数字を入れた瞬間から、根拠のない方向に配信が最適化されていきます。
2. 計算に使う数字は2つだけ
必要なのは「1件あたりの粗利」と「CVから成約までの率」の2つです。コンバージョン(CV、問い合わせや購入などの成果地点のこと)がそのまま売上になるECなら成約率は100%として扱えますし、問い合わせや資料請求がCVのBtoBやサービス業なら、CVの何割が受注に至るかを管理表から拾います。
粗利は売上ではありません。ここを売上で計算すると、上限CPAが2〜3倍に膨らみ、広告費を払った時点で赤字という設計になります。経理に聞くなら「この商品1件を売ったとき、仕入れや直接の人件費を引いて手元に残るのはいくらか」と聞くのが早く、商品ごとに違うなら、広告で主に売りたい商品の数字を使います。
成約率は、過去6か月の受注件数を問い合わせ件数で割るだけです。管理表がなければ営業担当に「問い合わせ10件のうち何件決まるか」を聞き、本人の体感より1〜2割低めに置いておくと、あとで苦しくなりません。
3. 計算手順:上限CPAから目標CPAへ
数値例で通します。単価120,000円、粗利率50%、成約率20%。
| 手順 | 計算 | 数値例 |
|---|---|---|
| ①1件あたり粗利 | 単価×粗利率 | 120,000円×50%=60,000円 |
| ②上限CPA(損益分岐) | 粗利×成約率 | 60,000円×20%=12,000円 |
| ③目標CPA | 上限×60〜70% | 7,200〜8,400円 |
| ④必要予算の確認 | 目標CPA×月30件 | 8,000円×30件=240,000円 |
②の12,000円は「問い合わせ1件にこれ以上払うと、成約しても粗利がゼロ」という線で、広告費以外にも営業の工数やツール代がかかるため、ここをそのまま目標にはしません。6〜7割に置く理由は、残りの3〜4割を営業コストと利益に残すためで、粗利率の高い商材なら7割、営業に人手がかかる商材なら5〜6割、という具合に動かして構いません。
④は見落とされがちです。Google広告のヘルプは、目標コンバージョン単価の成績を評価するとき、直近30日間で30件以上のCVを含めて見ることを推奨しています。目標8,000円で月30件なら、月24万円の予算が要る計算で、月予算が10万円なら見込めるCVは12件前後と、機械に渡す材料としては心もとない数になります。足りません。その場合は目標CPAを設定する前に、まず「コンバージョン数の最大化」で実績を貯める判断になります。少額予算での組み立ては「月30万円以下の戦い方」に書いています。
リピートのある商材は、1回の粗利ではなく年間の粗利で②を計算し直します。同じ例で平均2.5回購入されるなら粗利は150,000円、上限CPAは30,000円まで広がります。ただしリピート率は実績が貯まるまで信用しにくいので、初年度は1回分で計算し、半年後に更新するほうが安全です。
CVが購入そのもののとき
ECのように購入がCVなら、②の成約率は100%で、上限CPAは1件あたり粗利そのものになります。広告で売れている商品の注文額の中央値が8,000円で粗利率40%なら粗利3,200円、目標CPAはその6〜7割で1,900〜2,200円です。平均ではなく中央値を使うのは、平均だと一部の高額注文に引っ張られて上限が高く出て、安い商品が売れた月に赤字になるからです。ECで安全側に見るなら上限の5割から始める考え方もあり、その出し方は「小規模ECが初めて広告を出すとき」に手順があります。返品率が5%を超える商材なら、粗利から返品分を引いてから計算に入れます。送料無料の条件を付けているなら送料も粗利から引く。細かいようですが、1件あたり粗利が3,200円から2,600円に下がれば、目標CPAは400円前後動きます。
4. 最初の3か月で数字を育てる
最初の数字は仮置きです。
仮である理由は、計算に使った成約率が「広告以外の経路も混ざった過去の数字」だからで、広告経由の問い合わせは紹介や既存客より成約率が低く出ることが多く、2割で計算したものが実際は1割2分だった、という事態は普通に起きます。成約率が1割2分なら上限CPAは7,200円、目標は4,300〜5,000円に下がります。逆に広告経由のほうが決まりやすい業種もあります。どちらに転ぶかは、事前には読めません。
そこで、最初の3か月は目標CPAを変えずに、広告経由の問い合わせだけを管理表で区別して成約率を追います。目標CPAを週単位で上げ下げするのはやめたほうがよく、Google広告のヘルプによれば目標値の変更自体で学習済みの内容が消えるわけではないものの、変えるたびに入札が動いて変更前後の数字が比べられなくなり、いじるほど評価ができなくなります。学習の挙動は「学習期間の目安とリセットを避けるコツ」で詳述しています。
3か月たったら、広告経由の成約率で②を計算し直し、目標CPAを更新します。更新幅は一度に2割まで。入札の急な振れを抑えるためです。ここまでが自分でできる範囲で、計算も、成約率の更新も、社内の数字だけで回ります。
計算に使った前提は、粗利率50%、成約率20%、目標は上限の約67%(8,000円)、計算日は何月何日、という4行にして、スプレッドシートに日付つきで残しておきます。半年後に担当が替わったとき、目標CPAが8,000円である理由を誰も説明できない状態がいちばん困るからで、前提が残っていれば「成約率が変わったから目標も変える」という議論が社内で成り立ちます。上司に数字を報告するときも、この4行があるだけで説得力が変わります。代理店に運用を頼む場合は、この4行がそのまま代理店に頼む前に決める5つの1つ目になります。
自分で判断しにくいのは、その目標CPAに対して「今の実績CPAが高い原因」が目標の置き方にあるのか、キーワードや広告文やLP(広告のリンク先ページ)にあるのか、という切り分けのほうです。目標を7,200円に置いて実績が11,000円なら、目標が厳しすぎて配信が絞られているのか、無駄クリックが混ざっているのかで打ち手は正反対になり、どちらなのかは自分が組んだ設定を自分で疑わないと見えてきません。
※ 目標CPAは出せたが、実績との差の原因が分からない方へ ― 設定の側に原因があるかどうかは、アカウントを閲覧すれば切り分けられます。実際の診断レポートのサンプル(無料)で、どの項目をどう見るかをご確認ください。
5. よくある失敗3つ
1つ目は、競合や業界平均のCPAを目標にしてしまうことです。米WordStreamの2025年の調査では、Google広告の検索広告のリード獲得単価は全業種の平均(実際は中央値で算出)で70.11ドル、業種によっては28.50ドルから131.63ドルまで開きがあります。参考にはなっても、自社の粗利と成約率で出した数字とは別物です。粗利30,000円で成約率3割の商材なら上限CPAは9,000円で、この業界の数字(1ドル150円で約1万500円)を目標に置けば、目標どおりに取れた時点で赤字になります。相場観の使い方は「業種別CPAの考え方」に書きました。
2つ目は、CVの定義が曖昧なまま目標を決めることです。資料請求と問い合わせを同じCVとして数えていると、成約率はその混合比で変わります。資料請求の成約率が5%、問い合わせが30%なら、比率が変わるだけで上限CPAは6倍近く動きます。目標CPAを決める前に、どのCVを主にするかを決めておく。順番はこちらが先です。
3つ目が、目標を厳しくすれば安くなると思い込むことです。目標コンバージョン単価を5,000円に下げても、5,000円で取れる人が市場にいなければ、配信が止まるだけでCVは減ります。目標CPAは安く買うための数字ではなく、赤字にならない線を機械に教える数字です。
計算と更新は自社で完結します。ただ、出した目標が現実の市場で取れる水準なのか、取れないとしたら目標が原因なのか設定が原因なのかは、同じアカウントを毎日見ている人ほど判断が偏ります。自分で置いた数字の妥当性を、自分で採点する構図になるからです。数字の根拠は社内で持ち、その数字に対する配信の答え合わせは、設定を組んでいない目で見てもらう。目標CPAを初めて決めるときの線引きは、ここに置くのが実務的です。
※ 置いた目標CPAで配信が絞られていないか、月に一度は外の目で確かめたい方へ ― 読み取り専用の権限だけで確認できる月次チェックの形があります。実際の診断レポートのサンプル(無料)をご覧ください。
参考:公式ヘルプ
よくある質問
Q. 粗利率が商品ごとにバラバラです。どの数字を使えばいいですか?
A. 広告で主に売りたい商品、または直近半年で広告経由の売上が最も多かった商品の粗利率を使います。全商品の平均を取ると、安い商品が混ざって上限CPAが実態より低く出がちです。商品群ごとにキャンペーンを分けているなら、キャンペーンごとに目標CPAを別に置くほうが、1つの平均値で全体を縛るより配信の無理が減ります。
Q. 成約率のデータがまだありません。何%で仮置きすればいいですか?
A. 営業担当の体感値から1〜2割引いた数字で仮置きし、3か月後に広告経由の実績で差し替えます。体感値もない新規事業なら、問い合わせ型のBtoBで10〜20%、来店予約型で30〜50%あたりを出発点にする会社が多いものの、業種差が大きいので、この数字自体を目標に据えないよう注意が要ります。仮置きの数字で始めること自体より、更新の予定日を決めずに始めることのほうが、あとで困ります。
この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。
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