採用にリスティング広告は使えるか:求人媒体との違いと、採用単価から逆算する設計
求人媒体の請求書と実際に入社した人数を並べて見たことがある方は多いと思いますが、掲載料50万円、応募30件、面接に来たのが8人、入社1人。1人あたり50万円だと分かった瞬間に「この費用を他に回せないか」と考え始める、採用にリスティング広告を検討する方は、たいていこの計算の後に相談に来られます。
数字の作り方が違います。採用目的の広告は、商品やサービスの広告とは別物です。応募が10件増えても、その10件が面接に来なければ広告としては1円も回収できていませんが、応募が3件でも、1人が入社すれば人材紹介の手数料より安く済むことがあります。この記事では、求人媒体との役割分担、キーワードの組み方、採用単価から予算を逆算する手順を整理します。少額から始める場合の全般的な考え方は「少額予算でGoogle広告は成果が出るか」に譲り、ここでは採用固有の事情だけを扱います。
この記事の要点
- 評価軸は応募単価ではなく採用単価(1人入社あたりの広告費)。応募が安いほど採用単価が高くなることがある
- 求人媒体は「求人を探している人」に届く。リスティング広告はそこに乗らない層と、自社を指名で調べる層を拾う
- キーワードは「職種+地域+雇用形態」の3語を軸に。1語だけの職種名は採用意図のない検索を大量に含む
- 応募後の歩留まりを広告側に返さないと、どのキーワードが採用に効いたのかは分からないまま残る
1. 採用の広告が難しいのは、ゴールが遠いから
採用の広告が他と決定的に違うのは、コンバージョン(CV、問い合わせや購入などの成果地点のこと)の地点と、事業として欲しい成果の地点が大きく離れていることです。商品の広告なら購入の時点で売上が立ちますが、採用では応募が発生してもまだ何も起きておらず、書類選考、日程調整、面接、内定、承諾という関門をすべて通過して、ようやく1人の採用になります。
この距離が、数字の読み方を狂わせます。見えるのは応募までです。その先の脱落は数字に出ません。応募が増えれば管理画面上のCPA(CV1件あたりにかかった広告費)は下がるので、画面だけを見ていると改善しているように映ります。ところが人事の現場では「連絡がつかない応募が増えた」という逆の実感が起きていて、この食い違いは日常的に発生します。
もう1つの難しさは、需要の総量が小さいことです。ある地域の「経理 求人」を検索する人は、月に数十人から数百人という単位でしかなく、配信量を増やして統計的に最適化するやり方が成立しにくい規模です。加えて、同じ商圏の同業が同時に募集をかければクリック単価は上がって応募者は複数社を比較するので、広告の巧拙より給与や勤務地といった条件が結果を決める割合の高い領域だという前提は、最初に共有しておくほうが誤解が減ります。
2. 求人媒体・Indeedとリスティング広告の役割分担
「Indeedに出しているのに、さらにリスティング広告も必要ですか」という質問をよく受けます。答えは拾いたい層がどこにいるかで決まり、届く層が違うので、どちらかが上位互換になることはありません。
| 手段 | 届く相手 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 求人媒体・求人検索エンジン | 求人サイトの中で仕事を探している人 | 応募のボリュームを短期で確保したいとき |
| リスティング広告(自社採用ページ) | 検索エンジンで職種や社名を調べている人 | 通年募集、専門職、自社の情報量で勝負したいとき |
| 人材紹介 | エージェントに登録済みの転職顕在層 | 母集団が極端に薄い専門職、急ぎの1名 |
求人検索エンジンは掲載枠をクリック課金で買う仕組みが主流で、Indeedについては2024年以降、他媒体の求人原稿を横断して配信する仕組みが広がり、代理店を通した運用型の出稿が増えました。金額感は職種と地域で大きく変わるため一概には言えませんが、代理店各社の公開資料ではクリック単価が数十円から数百円のレンジで語られています。
リスティング広告が効くのは、この求人媒体の網に乗らない検索です。代表的なのは3つ。1つ目は自社名の指名検索で、媒体で求人を見た人が「株式会社◯◯ 評判」「◯◯ 年収」と調べる動きであり、ここで自社の採用ページが出ないと口コミサイトだけを読んで判断されます。2つ目は「職種名+地域」型の一般検索、3つ目は資格取得や業界研究の途中にいる転職潜在層の検索で、まず媒体で量を確保し、そこで見えた傾向を通年の受け皿に足す順序が現実的でしょう。
3. キーワードは「職種+地域+雇用形態」で組む
採用のキーワード設計で最初にやることは職種名を1語だけで買わないと決めることで、「保育士」という1語には、資格を取りたい学生、求人を調べている同業、仕事内容を知りたいだけの人、給与相場を確認している在職者が全部含まれます。この語だけで配信すると、クリックの大半が応募につながりません。決め手は、職種に何を足すか。実務では次の4パターンを軸に組み立てます。
| 型 | 検索語の例 | 扱い |
|---|---|---|
| 職種+地域+雇用形態 | 介護職 松本市 正社員/経理 池袋 パート | 主力。完全一致とフレーズ一致で厚く |
| 職種+条件 | 看護師 求人 夜勤なし/施工管理 求人 転勤なし | 条件を満たす場合のみ。満たさないなら除外 |
| 自社名・ブランド名 | ◯◯株式会社 採用/◯◯ 求人 中途 | 単価が安く応募率が高い。最優先で押さえる |
| 未経験・資格系 | webデザイナー 未経験 求人/宅建 求人 実務未経験 | 応募は増えるが歩留まりが落ちやすい。別グループで分離 |
除外キーワードは採用広告でとくに効きます。「年収」「資格 取り方」「志望動機」「辞めたい」「なるには」「ランキング」あたりは、応募意図がほぼないのに検索量が多い語です。初月に検索語句レポートを見ればすぐ特定できるので月1回の見直しを習慣にしてほしく、手順は「検索語句レポートと除外キーワード」に譲ります。地域指定も同様で、通勤圏を広げすぎると日程調整の段階で消える応募が増えるため、事業所から片道60分を目安に区切り、入社した人の居住地が分かってきたら実績に合わせて調整するのが手堅いやり方です。
広告文と募集ページの表記について
職業安定法では、労働者を募集する際に労働条件を明示することが求められています。厚生労働省の資料によれば、2024年4月から明示事項に「従事すべき業務の変更の範囲」「就業場所の変更の範囲」「有期労働契約を更新する場合の基準」などが追加されました。広告文で目を引く条件だけを切り出し、リンク先の募集要項と食い違う状態は避けたいので、「広告文に書いた金額・条件が、そのまま募集要項に同じ表現で載っているか」を出稿前に突き合わせる運用にしておくと事故が減ります。
個別の記載の可否は社会保険労務士など専門家に確認してください。
4. 採用単価から予算を逆算する
ここが採用広告の中心です。見るべき数字は応募単価ではなく採用単価、つまり1人の入社あたりにかかった広告費で、同じ広告費でも応募後の歩留まりによって倍以上変わります。月の広告費を20万円、クリック単価を150円と置くとクリック数は約1,333回。ここから2つのシナリオを比べます。
| 項目 | A:職種+地域+雇用形態中心 | B:職種1語まで広げた場合 |
|---|---|---|
| 広告費 | 20万円 | 20万円 |
| 応募数/応募単価 | 40件/5,000円 | 80件/2,500円 |
| 面接に到達した数 | 20件(到達率50%) | 20件(到達率25%) |
| 内定 | 3件(内定率15%) | 2件(内定率10%) |
| 承諾・入社 | 2名 | 1名 |
| 採用単価 | 10万円/人 | 20万円/人 |
Bは応募単価がAの半分で、管理画面だけを見ればBのほうが優秀な運用に見えます。ところが採用単価はBが2倍。面接に来ない応募を80件集めるために面接に来る応募40件と同じ金額を払っている、というのがこの表の意味で、採用広告の評価が管理画面の中で完結しない理由がここに凝縮されています。
次に、逆向きの計算をします。年間5名を採用したい会社が、1名あたりに許容できる採用コストを50万円と置いたとします。年間の採用予算は250万円。うち広告に振り分けられるのが6割なら150万円、月あたり12万5,000円が広告の枠で、Aの採用単価10万円が再現できるなら月1.25名、年15名の計算、目標の5名には余裕があります。Bの水準なら月0.6名で年7名程度です。
比較の物差しとして、人材紹介の手数料は理論年収の30%から35%程度が一般的とされ、年収400万円なら120万円から140万円です。自社の採用単価がこの水準を大きく下回っているなら、その職種は広告で回すほうが合理的だと言えますし、上回るならエージェントに任せたほうが早いという判断も、同じ表から出てきます。
※ 採用単価を出してはみたものの、その水準で回せているか分からない方へ ― 応募の先まで含めた内訳を並べれば、どの検索語が単価を押し上げているかを特定できます。実際の診断レポートのサンプル(無料)を用意しています。
5. つまずきやすい4つの点
1つ目は、CVの設定が「応募フォーム到達」になっているケースです。フォームを開いただけで数えると実際の送信数の2倍以上の数字が管理画面に並び、自動入札はその水増しされた数字を目標に最適化するため、応募につながらない層に予算が流れ続けます。サンクスページの表示をCVにしてください。
2つ目は、繁忙期と通年募集の切り分けがないことです。季節で人手の必要量が変わる業種では、必要な時期だけ配信を強め、それ以外は指名検索と主要キーワードを細く残す形が合うので、年間を通じて同じ日予算で流し続けると、必要のない時期に予算の半分近くを使ってしまうことがあります。
3つ目は、電話応募が数えられていないことです。飲食・建設・介護などでは採用ページから直接電話をかけてくる割合が高く、この経路が計測されていないと広告の成果が実際より小さく見えます。計測の入れ方は「電話コンバージョンの計測方法」に。4つ目は採用ページの情報量。求人媒体に慣れた応募者は、給与・勤務時間・休日・仕事内容・写真を一覧で確認できないページから離脱するので、媒体の掲載ページより情報が少ないなら自社サイトに誘導する意味が薄くなります。
6. 応募後の数字を広告に返す
ここまでの話をひとことでまとめると、採用広告の良し悪しは応募より後の情報がないと判定できない、ということになります。方法は2段階です。その情報を広告側に戻す道が2つあります。
簡単なほうは、手作業の突き合わせです。月末に応募一覧へ「面接に来たか」「内定を出したか」の2列を足し、応募日と流入元で広告のCVと照合すれば、どの広告グループ由来の応募が面接に到達しているかが見えます。1枚のシートで、月30分。応募が月に数十件の規模ならこれで判断がつきます。
もう一段進めるなら、オフラインコンバージョンの取り込みがあります。応募時に発行されるクリック識別子を採用管理システムに保存し、面接到達や内定の段階で広告側に送り返す仕組みで、自動入札が「面接に来る応募」を目標に学習し始めます。設定の考え方は「オフラインコンバージョンで広告に質を返す手順」に。まずは手作業からです。応募が月に数件の規模では、学習が回りません。
どちらを選んだとしても、自社だけで完結しにくい部分は残ります。検索語句のどれが面接到達につながる応募を生んでいるのか、除外が足りているのか、入札戦略が母集団の規模に見合っているのか。管理画面を一定の経験で読む作業なので採用担当の方が兼務で身につけるには時間がかかりすぎますし、求人媒体の運用を代理店に任せていても、見ているのは媒体の中であって自社サイトの広告アカウントではない場合がほとんどです。
外部に見てもらう場合、読み取り専用(閲覧のみ)の権限だけで確認は完結し、求人媒体の掲載も、媒体の運用を任せている代理店との契約もそのままで確認だけができます。依頼の言い方も「採用がうまくいっているか見てほしい」ではなく「面接に来ない応募がどの検索語から来ているか特定してほしい」と絞るほうが、答えの実用性が上がります。
応募一覧に面接到達の列を足すところまでは採用担当の仕事ですが、その先、面接に来ない応募を生んでいる検索語を管理画面から名指しするのは、兼務で身につけるには割の合わない技能です。次の募集が始まる前に、その一段だけ外へ出しておくと動きが変わります。
※ 採用アカウントの検索語句と除外を確認したい方へ ― どの語が採用単価を押し上げているかを外の目で洗い出せます。診断レポートのサンプル(無料)をご覧ください。
よくある質問
Q. 求人媒体をやめてリスティング広告だけに切り替えられますか?
A. 職種によります。自社名で検索されるだけの知名度があり、通年で同じ職種を募集している会社なら、媒体の比重を落としていける可能性はあります。一方、地域の未経験求職者を短期間に集めたい場合は検索需要そのものが足りず、媒体を外した途端に応募が止まることが多いです。切り替えるなら、媒体の掲載を続けたまま3カ月ほど並走させ、どちらから面接到達者が出ているかを見てから比重を動かしてください。
Q. 採用の広告に自動入札は使えますか?
A. 応募のCVが月に30件前後たまるようになれば選択肢に入ります。それ以下の規模で目標コンバージョン単価を設定すると、学習が回らないまま配信量が絞られ、応募が止まったように見える状態になりがちです。件数が少ないうちはクリック数の最大化で検索語句を整えることに集中し、母集団が増えてから切り替える順番が扱いやすいです。
この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。
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