広告運用の丸投げは危険?任せきりのリスクと最低限の関与3つ
レポートは毎月届いているが、開いていない。定例の説明は聞いているが、質問はしたことがない。広告の管理画面には、一度もログインしたことがない。広告を代理店に任せている会社で、この3つが揃っている状態は珍しくありません。専門の代理店に任せる判断自体は、決して悪いことではありません。餅は餅屋という考え方は合理的ですし、社内に知識を持つ人がいない会社が無理に自社運用へ踏み切って、かえって遠回りになるケースもよく見ます。問題は「任せる」が、いつの間にか「見ていない」に変わってしまうことです。
丸投げの本当の危険は、代理店が手を抜くかもしれないことではありません。手を抜かれても問題が起きても、発注側がそれに気づく手段を持っていないことです。気づけない、が核心です。この状態から抜け出すのに広告の専門知識は要りません。必要なのは、専門用語が分からなくてもできる「最低限の関与」を3つだけ決めておくことです。
この記事の要点
- 丸投げの本当のリスクは「気づく手段がないこと」。計測の劣化や検索語句の放置は、レポートには表れにくい
- 丸投げは怠慢ではなく構造の問題。発注側に判断材料が渡されていないことが原因になっている場合が多い
- 全部自分でやる必要はない。①成果の定義を自分の言葉で決める、②月1回3つの数字を見る、③閲覧権限を自社で持つ、の3つで十分。ただし、アカウントの中で何が起きているかは3つ全部やっても見えない
- 最初の一歩は、次の定例で「何をコンバージョンとして数えていますか」と聞くことから始められる
1. 丸投げで実際に起きること
任せきりにしたからといって、すべてのアカウントで問題が起きるわけではありません。発注側が見ていなくても、丁寧に運用を続ける会社はあります。ただ、診断の現場で「数年間、誰もチェックしていなかった」アカウントを開けると次のような状態が高い確率で見つかり、共通するのはどれも月次レポートの数字だけでは気づけないという点です。
計測が実態からずれていく
広告の成果は、コンバージョン(CV、問い合わせや購入などの成果地点のこと)の発生数を数えて測りますが、この計測は一度設定したら終わりではなく、サイトの改修やフォームの変更のたびに静かにずれていきます。計測がずれたままだと、レポート上のCV数もCPA(CV1件あたりにかかった広告費)も実態と別の数字になり、その上で行われる改善の議論はすべて砂の上に立つことになります。怖いのは、代理店自身もずれに気づいていない場合が多いことです。誰かが「レポートの件数と実際の問い合わせ件数、合っていますか」と突き合わせない限り、ずれは何年でも生き続けますが、丸投げ体制では、その誰かが存在しません。ずれ方のパターンと確認の順番は「広告の効果が分からないと感じたら」で整理しています。
検索語句の手入れが止まる
リスティング広告は、設定したキーワードに関連する検索語句にも広告が表示される仕組みです。そのため「どんな検索に広告費が使われたか」を定期的に確認し、関係のない語句を除外する手入れが欠かせません。この手入れが止まります。誰も見ていないアカウントでは数カ月から数年単位で放置されていることがあり、求人目的の検索やまったく別の商品を探す検索にお金が流れ続けていても、レポートの合計値には埋もれて見えません。実際の診断では広告費の1〜2割がこうした無関係な検索に流れていた例も珍しくなく、月100万円の広告費なら毎月10万円以上が静かに漏れている計算になります。
アカウントの名義と権限が代理店側に渡ったままになる
広告アカウントそのものが代理店の名義で開設され、発注側の誰もログインできないというケースです。この状態では、上に挙げたような問題を確かめようにも、確かめる場所に入れません。契約を解約するとアカウントごと使えなくなり、蓄積された配信データも引き継げない恐れがあります。名義と権限の問題は影響が大きいため、詳しくは別記事「広告アカウントの名義と権限は自社が持つべき理由」で整理していますが、丸投げ体制の会社ほどこの状態に陥りやすいことは、ここで指摘しておきます。
「成果の定義」のズレが放置される
意外に多いのが、代理店が追っている成果と、発注側が求めている成果がずれたまま何年も進んでいるケースです。たとえば代理店は「資料請求の件数」を最大化しているが、社内で本当に求められているのは「商談につながる問い合わせ」だった、という具合です。どちらも間違ってはいないのに、目指す場所が違う。この定義合わせは発注側にしかできない仕事ですが、丸投げ体制では議題に上がる機会がなく、ズレは放置され続けます。厄介なのは、ズレたままでも代理店のレポート上は「順調」に見えることで、設定された目標に向けて忠実に運用しているだけの代理店は誰も嘘をついていないのに、事業に効かない広告だけが続いてしまいます。
2. なぜ丸投げになるのか:怠慢ではなく構造の問題
丸投げは、担当者の怠慢で起きるのではありません。多くの場合、構造的にそうなるべくしてなっています。
1つは、判断材料が渡されていないことです。ある会社で見せてもらった月次レポートは、A4で12ページ、指標が30列ほど並んでいるのに、社内がいちばん知りたい「問い合わせが何件で、1件あたりいくらか」は表の中ほどに小さく載っているだけでした。しかも、その数字が良いのか悪いのかの基準はどこにも書かれておらず、担当の方は「毎月目は通しているが、どこを見れば判断したことになるのか分からない」と話していました。この状態で「レポートをきちんと見ろ」と言われても、見ようがないのです。分からないのは発注側の勉強不足ではなく、判断材料の渡され方の問題だと考えています。
もう1つは、確認する時間と、確認することへのためらいが重なることです。広告担当が専任でなく営業や総務と兼任という会社では広告の優先順位が自然と下がり、そこへ専門家として選んで契約した相手の仕事ぶりを確かめるのは「疑っているようで失礼」という感覚が加わります。とりわけ担当者が誠実で人柄が良いと、この心理は強くなります。ただ、確認と不信は別物です。経理を税理士に任せている会社でも、試算表には目を通すはずです。そもそも社内に広告の分かる人がいない前提で体制をどう組むかは「社内に広告が分かる人がいない会社の広告投資判断」で扱いました。だからこそ、次の章の関与は「最低限」に絞ります。広告の教科書を読むことではなく、事業側の人間にしかできない仕事だけに限定する、という発想です。
3. 全部自分でやる必要はない:最低限の関与3つ
丸投げの対極は「自社運用」ではありません。任せる部分は任せたまま、判断の主導権だけ手元に残す。そのために必要な関与は、次の3つで足りると考えています。
関与1:成果の定義を自分の言葉で決める
「何をコンバージョンとして数えるか」を、専門用語ではなく自分の事業の言葉で決めて代理店に伝えることです。決めるのは広告の言葉ではありません。「フォームからの問い合わせのうち、営業が商談化できるもの」「単価3万円以上の商品の購入」など粒度は粗くて構わず、事業が変われば定義も変わるので、年に一度は見直す前提でまず現時点の言葉にしておけば十分です。これは事業の知識で決めることなので発注側にしかできませんし、定義が決まれば代理店の運用にも軸ができて、先ほど挙げた「定義ズレの放置」も防げます。
関与2:月1回、3つの数字だけ見る
管理画面かレポートで、月に1回、次の3つだけ確認します。①広告費はいくら使ったか、②決めた定義でのCVは何件あったか、③CV1件あたりいくらかかったか(CPA)。この3つを毎月同じ場所にメモして、前月と比べる。それだけで「先月より高くなっていますが、何がありましたか」という質問ができるようになります。質問の中身に専門性は不要です。変化に気づいて理由を尋ねる、この往復があるだけで、運用側の緊張感は変わります。記録の場所は社内の売上管理に使っている表計算ソフトの隅で十分で、広告の数字を事業の数字と同じ場所に置くこと自体に、広告を「経営の数字」として扱う効果があります。3つの数字の見方は「経営者が広告レポートで見るべき3つの数字」で詳しく解説しています。
関与3:閲覧権限を自社で持つ
広告アカウントに自社の誰かがログインできる状態を作っておくことです。毎日見る必要はまったくありません。「いつでも見られる」という状態そのものに意味があります。広告費を出しているのは自社なので、中身を見る権利はもともと自社にあります。閲覧だけなら読み取り専用の権限で足ります。権限の種類や、角を立てずに依頼する言い方は「広告アカウントの名義と権限」で整理しているので実務はそちらを参照していただくとして、権限がある状態なら、将来、外部の実務者に状態を見てもらいたくなったときも代理店の作業を待たずに自社の判断で進められます。
3つで届く範囲と、届かない範囲
ここで正直に線を引いておきます。①定義、②月次の3つの数字、③権限、この3つは発注側で持てます。専門知識も要りませんし、月に10分もかかりません。ただし、この3つを全部やっても、アカウントの中で実際に何が起きているかは見えません。CVタグが二重に発火して件数が1.4倍に膨らんでいる、広告費の2割が求人目的の検索語句に流れている、入札戦略が半年前から学習中のまま止まっている。こうした事象はどれも、月次の3つの数字の上では「CPAが少し悪化した」としか映りません。原因の側は、管理画面の中にしかないからです。3つの数字は「何かがおかしい」と気づくための道具であって、「何がおかしいか」を答えてはくれません。そこは人の仕事です。
※ 「何がおかしいか」まで知りたい方へ ― アドサプリは、いま契約している代理店をそのままに、読み取り専用の権限をお預かりして中身だけを確認する月次の診断です。配信設定には一切触れないので、いまの運用に影響は出ません。まずは実際の診断レポートのサンプル(無料)をご覧ください。
4. 関与を取り戻す最初の一歩
3つの関与を明日から全部やろうとすると、たいてい続きません。最初の一歩は1つに絞ることを勧めます。具体的には、次の定例か、次にレポートが届いたタイミングで、代理店にこう聞いてみてください。「いま、何をコンバージョンとして数えていますか。それはうちの事業でいうと何にあたりますか」。
この質問には3つの効果があります。まず、成果の定義(関与1)の議論が自然に始まります。次に、返ってきた答えを自分の言葉で言い直すことで、レポートの数字が初めて事業の数字として読めるようになり、そして代理店側にも「この発注者は数字の意味を確認する人だ」と伝わります。長く任せきりだった場合、答えが要領を得ないこともありますが、それ自体が現状を知る材料になります。
定例の場がなければ、メールで同じ質問を送って構いません。数年ぶりに発注側から質問が来ると、代理店の担当者が慌てて中身を見直す、ということも実際にあります。咎めるべきことではなく、関与が運用の質に直結することの証明です。
そのうえで、余力ができたら閲覧権限の確認に進んでください。自社に権限があるか分からなければ、それを代理店に尋ねるだけでも前進です。もし数年単位で任せきりだった自覚があり、アカウントの中がどうなっているか不安な場合は、今の代理店とは別の実務者に一度状態を見てもらう「セカンドオピニオン」という選択肢もあり、受け方や代理店と揉めないための段取りは「広告運用のセカンドオピニオンとは」にまとめています。
任せることと、見ないことは違います。逆に言えば、見てさえいれば、任せることは今後も合理的な選択であり続けます。月に一度、3つの数字を眺めて1つ質問する。そのくらいの関与から、判断の主導権は取り戻せます。そして、質問の答えが腑に落ちなかったときにだけ、中を見られる人の手を借りればよいのだと思います。
※ 質問はしてみたが、返ってきた説明で納得できたのか判断がつかない ― そんな段階の方へ。アドサプリは、月次で広告アカウントの中身を確認し「どこに詰まりがあり、次に誰が何をすべきか」を発注側の言葉で返す診断です。代理店の乗り換えを勧めるサービスではないので、運用は今の会社に任せたままで構いません。診断レポートのサンプル(無料)を公開しています。
よくある質問
Q. 広告の知識がまったくないのに、代理店に質問して恥をかきませんか?
A. 心配は要りません。「何をコンバージョンとして数えていますか」「この数字は先月と比べてどうですか」といった質問に、専門知識は不要です。まともな代理店であれば、発注側が数字に関心を持つことを歓迎します。むしろ、専門用語を並べるだけで事業の言葉に翻訳してくれない場合は、同じ質問をもう一度、今度は書面での回答を添えてお願いしてみてください。口頭なら流せることも、文章にすると曖昧さは残せません。
Q. 忙しくて月1回の確認も難しい場合はどうすればよいですか?
A. まず閲覧権限だけ自社で確保しておくことを優先してください。見る時間がなくても「いつでも見られる状態」を作っておけば、いざというときに動けます。そのうえで、日々の確認を外部に任せる方法もあります。月次で広告アカウントの状態を確認する診断サービスを使えば、自社の工数をかけずに「見ている状態」を保てます。
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この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。
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