士業のリスティング広告:相談内容ごとに単価も規制も変わる
「無料相談の予約は月に25件入るんです。でも、実際に受任につながるのは2件か3件。残りの20件以上は、話を聞いて終わりです」。ある事務所の代表から聞いた話です。件数だけを見れば広告は成功していてCPA(CV1件あたりにかかった広告費)も低いのに、事務所の側では所長と若手の時間が相談対応で埋まり、売上は増えていません。
士業の広告でこの形になるのは、珍しいことではありません。理由は単純で、「無料相談」というひとつの入口に単価も緊急度もまったく違う相談が流れ込んでくるからで、相続の資産家も、債務整理を考えている個人も、顧問税理士を探している法人も、同じフォームから入ってきます。この記事では、分野ごとに数字を分ける考え方から整理します。
この記事の要点
- 相続・債務整理・顧問契約は、受任単価も受任率も違う。許容CPAは分野ごとに別々に置く
- 無料相談は件数が出るぶん質がばらつく。入口の絞り込みで質を作るほうが後工程が楽になる
- 士業の広告は各会の規程が上位にある。所属会の最新の規程を先に確認してから広告文を作る
- 指名検索と一般検索は役割が違う。指名を守りながら、地域と分野の掛け合わせで新規を取る
1. 分野ごとに許容CPAを別々に置く
まず数字から入ります。同じ「無料相談1件」でも、事務所にとっての価値は分野で大きく変わります。仮の数字で3つの分野を並べてみます。
法人の顧問契約から。月額顧問料3万円、平均の契約継続が5年だとすると、生涯の売上は3万円×12カ月×5年で180万円です。担当者の稼働にかかるコストを差し引いた粗利率を50%と置くと90万円で、この粗利のうち15%までを広告に使うなら、1件の受任にかけられるのは13万5,000円になります。無料相談から顧問契約に至る割合が20%、つまり相談5件で1件なら、相談1件の許容CPAは13万5,000円を5で割って27,000円です。検算すると27,000円×5件=13万5,000円で一致します。
次に相続です。遺産分割や相続手続の報酬を1件50万円、粗利率60%で30万円。同じく15%を上限とすると4万5,000円で、相談から受任に至る割合を40%とすれば相談2.5件で1件なので、4万5,000円÷2.5で18,000円になります。検算は18,000円×2.5件=4万5,000円。
債務整理も見ます。報酬を15万円、粗利率60%で9万円、15%の上限で1万3,500円、相談から受任が50%なら相談2件で1件なので、1万3,500円÷2で6,750円。検算は6,750円×2件=1万3,500円です。
| 分野 | 1件の粗利 | 相談から受任 | 相談1件の許容CPA |
|---|---|---|---|
| 法人の顧問契約 | 900,000円 | 20% | 27,000円 |
| 相続 | 300,000円 | 40% | 18,000円 |
| 債務整理 | 90,000円 | 50% | 6,750円 |
上限にすると27,000円から6,750円まで、4倍の開きがあります。ここで冒頭の話に戻ります。相談25件の内訳が債務整理20件と相続5件なら、平均CPAがいくら低くても事務所の売上は伸びませんし、逆に顧問契約の相談を1件2万円で取れているなら、それは十分に成立している買い物です。数字は事務所ごとに置き換えてください。逆算の考え方そのものは「リード獲得単価の相場観」でも扱っています。
2. キーワードは「地域×分野」で、意図の段階まで見る
士業の検索語は、分野の語と地域の語の掛け合わせが基本形になります。そのうえで、意図の段階を見分けると精度が上がります。
基本になるのが、分野と地域の語です。「相続 弁護士 〇〇市」「税理士 顧問 〇〇区」「〇〇市 社労士 就業規則」といった形で、分野が明確で地域も絞られているので、いちばん受任に近い層です。
状況と困りごとの語が、そのすぐ隣に来ます。「遺産分割 兄弟 揉めている」「会社設立 税理士 いつから」「残業代 未払い 相談」といった語は、分野名を知らない人が状況で検索している形で、ここは相談に至る前の段階も混ざります。
費用と比較の語も一群あります。「相続 弁護士 費用 相場」「税理士 顧問料 安い」「〇〇市 弁護士 口コミ」。比較の最中なので、料金や進め方が分かるページに着地させないと離脱します。
受任からいちばん遠いのが情報収集の語です。「相続税 いくらから」「就業規則 ひな形」。予算が限られるなら後回しか除外の対象になります。
除外側も具体的に決めます。「弁護士 求人」「税理士 試験」「社労士 年収」といった職業に関する検索、「法テラス」「無料 テンプレート」など自力解決を探している語、扱っていない分野の語は先に止めておきます。手順は「検索語句レポートと除外キーワード」が参考になります。
もうひとつ、士業の検索には時間帯の癖があります。個人向けの相談は夜と週末に伸び、法人向けの顧問や労務の検索は平日の日中に集中します。同じ事務所が両方を扱っているなら、配信時間を分けるだけでも無駄が減ります。相続や離婚のように、家族が集まる連休の直後に検索が動く分野もあるので、自事務所の問い合わせ台帳を月別・曜日別に並べてみると、自分たちの波が見えてきます。
指名検索の扱いも決めておきたいところです。事務所名や所長の名前で検索する人は、紹介を受けたか、他の媒体で見て確かめに来た層で、最も受任に近くなり、ここに他事務所やポータルサイトの広告が並んでいるなら守る価値があります。判断の分かれ目は「ブランド指名キーワードに広告を出すべきか」に整理しました。
3. 無料相談の質のばらつきを、入口で作る
士業の広告で最も相談が多いのがここです。無料相談は件数が出やすい反面、受任につながらない相談も同じ数だけ増え、しかも相談対応の時間は有資格者の時間そのものなので、質の低い相談が増えると目に見えないコストが積み上がります。
打ち手は大きく2方向あります。1つは入口を絞ること。広告文とLP(広告のリンク先ページ)に、対応する分野、対応できない範囲、費用の目安、初回相談の進め方を先に書いておくと、条件が合わない人はそこで離れます。コンバージョン(CV、問い合わせや相談予約などの成果地点のこと)の件数は減りますが、受任率は上がります。
もう1つが、フォームの設問を増やすこと。相談分野の選択、おおよその金額規模、希望する連絡方法を1つずつ足すだけで、冷やかしに近い問い合わせは減ります。ただし増やしすぎると本命も落ちるので、2問か3問から試すのが無難です。
そのうえで、受任したかどうかを広告側に返す仕組みを持てると機械側の学習が変わり、相談の件数ではなく受任の件数を最適化の目標にできれば、質の高い検索に費用が寄っていきます。段階を分けた成果の設計は「マイクロコンバージョン設計」で扱っています。
ここまでの3点は、いずれも自分の事務所で決められることです。逆に言えば、いま広告が何を成果として数えていて、どの分野の検索に費用が流れているのかを把握していないと、決めようがありません。管理画面を開ける時間が取れないなら、状態の把握だけ外に頼むという分け方もあります。
※ 分野ごとに費用がどう流れているか、外の目で確かめたい方へ ― 閲覧のみの権限をお預かりする形なので、設定にも代理店との関係にも手を入れません。実際の診断レポートのサンプル(無料)を用意しています。
4. 士業の広告は、各会の規程が上位にある
ここからは規制の話です。以下は公表資料から読み取れる一般的な整理で、個別の表現の適否を判断するものではありません。規程は改正されますので、実際の広告文を作る前に、所属する会の最新の規程と、必要なら会の窓口や専門家に確認してください。
弁護士については、日本弁護士連合会が「弁護士の業務広告に関する規程」と、その運用を示す「業務広告に関する指針」を定めています。規程では禁止される広告の類型が示されており、事実に合致しないもの、誤導または誤認のおそれのあるもの、誇大または過度な期待を抱かせるもの、特定の弁護士との比較、法令や会規に違反するもの、弁護士の品位や信用を損なうおそれのあるものといった区分が挙げられています。有利な結果を請け合う表現や、訴訟の勝訴率を示す表示は、この枠組みの中で慎重に扱われてきた領域です。所属する単位会の側にも会規がある場合があるため、日弁連の規程だけを見て済ませないほうが安全です。
税理士については、税理士法上の広告に関する禁止規定が2001年の法改正で撤廃されたと説明されており、現在は日本税理士会連合会の「税理士会会員の業務の広告に関する運用指針」が実務上のよりどころになっています。広告そのものは可能でも、虚偽や誇大な表示、他の税理士との比較で優位を示す表示については制限があるという整理です。社会保険労務士、司法書士、行政書士なども、それぞれの連合会や単位会が会則や倫理規程を持っており、内容は資格ごとに違います。
景品表示法との関係も整理しておきます。景品表示法が対象とするのは一般消費者に向けた表示なので、相続や離婚、債務整理のように個人を相手にする業務の広告は、この法律の視野に入ります。一方で、法人向けの顧問契約や労務コンサルティングのように事業者を相手にする業務の表示は、一般消費者向けの表示とは扱いが異なります。ただし各会の規程は相手が誰であっても適用されるので、法人向けだから何を書いてもよいという話にはなりません。
媒体側の審査もあります。Google広告では法律関連や金融関連のカテゴリーで、業種によって審査や証明書の提出を求める運用が行われる場合があります。出稿の準備段階で、媒体のポリシーと会の規程の両方を見ておくと、後戻りが減ります。
5. 士業の広告運用でつまずきやすい点:分野の混在と電話相談の計測漏れ
実務でよく起きる詰まりを挙げます。
1つ目が、分野をひとつのキャンペーンに混ぜている状態で、許容CPAが4倍違う分野を同じ予算の中で競わせると、単価の安い分野に費用が寄っていきます。機械は素直です。分野ごとにキャンペーンとCVを分けるだけで、判断ができるようになります。
2つ目が、電話相談の計測漏れです。士業への問い合わせは電話の比率が高く、そこを数えていないと成果を大幅に過小評価します。しかも電話の相談は分野の内訳が管理画面に残らないので、受付のメモを月次で集計する運用を決めておかないと、後から分野別の判断ができません。
3つ目が、対応エリア外からの相談です。オンライン面談が普及したとはいえ、裁判所の管轄や訪問の必要から実際には受けられない地域があるので、配信地域の設定と、実際に受任できる範囲が一致しているか確認してください。
4つ目が、広告文と着地先の分野のずれ。「相続」で検索した人を事務所のトップページに送ると、取り扱い分野の一覧の中から自分で探すことになります。分野ごとのページを用意するだけで結果が変わることがあります。
士業の広告は、数字の設計と表現の制約が同時にかかる手間のかかる領域で、しかも本業は相談対応と書類作成となると、管理画面に向き合う時間はほとんど残りません。表現の判断は所属会と専門家の領分です。一方で、費用がどこに流れていて何を成果として数えているかという点は、広告の実務者が見ればすぐ分かる部類の話でもあります。分けられる仕事は分けてしまって、事務所の時間は受任に近い作業へ戻す。この配分が、結果的にいちばん効きます。
※ 分野の混在や計測漏れがないか確かめたい方へ ― 診断レポートのサンプル(無料)で、どこまで見えるかをご覧ください。
よくある質問
Q. 無料相談をやめて、有料相談だけにしたほうがよいのでしょうか?
A. 分野によります。債務整理や交通事故のように無料相談が業界の標準になっている分野で有料に切り替えると、相談件数そのものが大きく減ります。一方で相続や企業法務のように、相談の中身が濃く準備も要る分野では、初回から有料にしている事務所もあります。判断の材料は、いまの受任率と、相談1件にかかっている時間です。受任率が1割を切っていて相談に1時間かけているなら、有料化か入口の絞り込みのどちらかを検討する段階に来ています。
Q. 事務所名の指名検索に広告を出すのは、費用の無駄になりませんか?
A. 無駄になる場合とならない場合があります。検索結果の一番上に自事務所のサイトが出ていて、他社の広告が一切並んでいないなら、出さなくても取りこぼしは小さいはずです。逆に、ポータルサイトや同じ地域の他事務所が自事務所名で広告を出しているなら、紹介で来た人がそちらに流れます。まず自分で検索してみて、画面の状態を確かめるのが先です。出す場合も、指名は一般の語より単価が低くなりやすいので、少額でも守りは効きます。
この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。
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