学習塾の広告は年間カレンダーで組む。検索する人と通う人が違う商売
2月と3月で年間の入塾者の4割、7月から8月にかけてさらに3割。多くの塾で、新規の生徒はこういう偏り方をします。残りの8カ月で3割を取り合う形になるわけですが、広告の予算だけは月20万円ずつ12カ月きれいに割られていて、この不一致が学習塾の広告でいちばんもったいない状態です。
もう一つ、学習塾には他の業種にない構造があります。検索して問い合わせるのは保護者、実際に通うのは子ども。判断する人と使う人が違うので、広告文が刺さる相手と通い続けるかどうかを決める相手がずれ、季節の偏りとこの分離をどう扱うかで、同じ予算でも結果が変わります。
この記事の要点
- 年間予算は12等分せず、新学期期と講習期に寄せて配分する。年間カレンダーが設計図になる
- 検索するのは保護者、通うのは生徒。広告文とページは保護者の判断材料で書く
- キーワードは地域と学年と科目の3軸。学年が変わると検索語も競合も変わる
- 合格実績や口コミの表示は景品表示法の論点。集計基準を書けるかどうかが分かれ目になる
1. 学習塾の広告を難しくしている3つの構造
需要の山と谷の落差が、まず効きます。学年が切り替わる2月から4月、夏期講習の申込が動く6月から7月、冬期講習と受験直前の11月から12月と、この3つの山の外では検索そのものが細ります。飲食や小売の季節変動とは規模が違い、同じ地域の同じキーワードでも月によって検索数が3倍以上動くことがあり、閑散期の感覚のまま2月の予算を組むと確実に足りなくなります。
検索者と利用者が別人です。これも他の業種にはない事情です。「〇〇市 中学生 塾」と検索しているのは保護者で、費用や送迎や実績を見ていますが、通い始めてから続くかどうかを左右するのは、生徒本人が講師や教室の雰囲気を気に入るかどうかです。広告からの流入を増やすことと退塾率を下げることは実は別の仕事で、広告側で握れるのは前半だけだと割り切ったほうが話が整理されます。
この分離は、LP(広告のリンク先ページ)の作りにも影響します。保護者が最初に確かめたいのは料金と通塾のしやすさと実績で、生徒が気にするのは雰囲気と講師なので、ページの上のほうを生徒向けの言葉で埋めると、決裁者である保護者が知りたい情報にたどり着けません。順序は上下で分けます。上半分は保護者の判断材料、下半分に教室と講師の様子、という形が扱いやすくなります。
商圏の狭さも見落とせません。小中学生が自力で通える距離は限られ、自転車で15分から20分が現実的な線で、高校生や社会人向けのスクールなら通学経路上の駅前まで広がりますが、いずれにせよ市区町村を超える配信は無駄が出ます。加えて、送迎する保護者の車の動線も無視できません。国道沿いや駅前の教室と、住宅街の中の教室では、届く範囲がまるで違います。
2. 年間予算はカレンダーで割る
入塾が起きる月と予算を厚くする月は1〜2カ月ずれます。検索は山の手前で動くからです。
やり方は単純です。季節の偏りに合わせるなら、年間の広告費を先に3つの箱に分けます。
仮に年間240万円としましょう。新学期期にあたる2月から4月の3カ月に35%、夏期講習の集客が動く6月から7月の2カ月に25%、残りの7カ月に40%。金額にすると84万円、60万円、96万円で合計240万円、月あたりでは新学期期が28万円、夏期講習期が30万円、それ以外の7カ月は約13.7万円になります。検算すると28×3=84、30×2=60、13.7×7=約96で、それぞれ一致します。
ここで谷の期間をゼロにしない点が肝心です。閑散期に止めると、山の入口で再開したときにアカウントが冷えた状態から始まり、いちばん取りたい2月や7月の頭の2週間を立ち上がりの調整に使ってしまいます。谷でも細く回し続けて、山で厚くする。
もうひとつ、山が来てから予算を上げても遅い場合があります。夏期講習の検索は6月中旬から動き始めるので、7月に入ってから広告を強めると、いちばん比較検討されている時期を逃します。立ち上げは山の3〜4週間前が目安で、季節ビジネス全般の予算配分と立ち上げの型は「季節性の強いビジネスの広告設計:年間予算の配分と、山の前に点検すること」に整理しました。前年のデータがない場合でも、問い合わせ台帳の日付を並べれば自塾の山はすぐ分かります。
「〇〇駅 塾」の検索では地図の枠(Googleビジネスプロフィール、MEO)も上部に出ます。教室情報と口コミの整備は広告と別立てで進めてください。
3. キーワードは地域・学年・科目の3軸で掛ける
学習塾の検索語は、この3軸の組み合わせでできています。
地域軸は5種類あります。市区町村名、駅名、町名、学区名、それに通学先の学校名です。学校名は特に効きます。「〇〇中学校 近く 塾」「〇〇高校 対策」といった検索は、通える距離と目的の両方が絞られているので、質が高くなりやすい語です。
学年軸は、小学生・中学生・高校生という区分に加えて、「中3」「高2」「小6」といった具体的な学年、それに「新中1」のような時期特有の言い方があります。学年が変われば保護者の悩みも変わり競合する塾も変わるので、同じキャンペーンに入れず、少なくとも広告グループは分けたいところです。学年表記は年度で意味がずれる点にも注意が要ります。1月の「中3」は受験直前の生徒を指しますが、4月の「中3」は1学年上がった別の集団なので、学年入りの広告文を作ったまま年度をまたぐと、実態と合わない文言が残ります。
科目・目的軸は、「英語」「数学 苦手」「中学受験」「高校受験 〇〇高校」「定期テスト対策」「不登校 学習支援」など。意図の差が最も出る軸です。たとえば「中学受験」と「定期テスト対策」では、保護者が求めるものも払える金額も違います。
3軸を掛けると語数は増えますが1つあたりの検索数は小さくなり、少ない検索数の語を丁寧に拾うほうが、大きな語で全社と競り合うより結果が出やすいのが地域密着の塾の現実です。除外側では「塾 バイト」「塾講師 求人」「無料 プリント」「〇〇高校 偏差値」といった、入塾に結びつかない語を早めに止めます。止め方は「検索語句レポートと除外キーワード」で扱っています。
4. 体験授業のCPAを、在籍期間から逆算する
学習塾のコンバージョン(CV、問い合わせや申込などの成果地点のこと)は、多くの場合が無料体験授業か教室見学の申込です。この1件にいくらまで使えるかを逆算します。
月謝25,000円、平均の在籍期間を24カ月とすると、1人の生徒がもたらす売上は60万円です。講師の人件費や教材費といった変動費を売上の55%と置くと残るのは45%の27万円で、この粗利のうち20%までを広告に使うと決めるなら、入塾1件あたりの上限は54,000円になります。
体験授業から入塾に至る割合が50%なら体験2件で1人の入塾なので、54,000円を2で割って、体験申込1件の許容CPA(CV1件あたりにかかった広告費)は27,000円です。検算すると、27,000円×2件=54,000円で、入塾1件の上限と一致します。
| 前提 | 在籍24カ月の場合 | 在籍12カ月の場合 |
|---|---|---|
| 1人あたりの売上 | 600,000円 | 300,000円 |
| 粗利(45%) | 270,000円 | 135,000円 |
| 入塾1件の広告費上限(粗利の20%) | 54,000円 | 27,000円 |
| 体験申込1件の許容CPA(入塾率50%) | 27,000円 | 13,500円 |
右の列は、平均在籍が12カ月に縮んだ場合です。売上が半分になるので、許容できるCPAも半分になります。効くのは在籍期間です。広告文をどれだけ練っても、平均在籍が24カ月から12カ月に縮めば出せる金額は半分になるわけで、集客の巧拙より退塾率のほうが許容CPAへの影響は大きいということになります。自塾の平均在籍期間を月数で言えないなら、そこを数えるのが広告より先の仕事になります。
あわせて注意したいのが、季節による質の差です。夏期講習だけを目的にした申込は講習が終われば離れる割合が高く、同じ「体験申込1件」でも、2月の申込と7月の申込では在籍期間の期待値が違います。この差を管理画面だけで見分けるのは難しく、申込の月ごとに入塾率と在籍期間を追う地道な作業になるからこそ、いま自塾のアカウントが何を成果として数えているのかを一度確かめておく価値があります。
※ 何をCVとして数えているか、季節ごとの配分が実態に合っているか ― こうした点は読み取り専用の権限だけで外から確認できます。実際の診断レポートのサンプル(無料)を用意しています。
5. 合格実績と口コミの表示は慎重に扱う
ここからは表示のルールです。以下は一般的な整理であり個別の表現の適否を判断するものではないので、実際の広告文やページを出す前に、景品表示法や特定商取引法に詳しい専門家、あるいは所属する業界団体に確認してください。
まず合格実績です。「〇〇高校 合格50名」と書くとき、その50名が何を指すのかで意味はまるで変わり、通年で在籍していた生徒だけなのか、講習だけ受けた生徒を含むのか、模試の受験者を含むのか、延べ人数か実人数か。基準の提示が要ります。集計の基準を示さずに大きな数字だけを見せる形は、景品表示法の優良誤認に関わる論点になり得ます。2023年3月には、個別指導塾の比較広告について消費者庁が景品表示法に基づく措置命令を出しており、教育業界も表示の適正さを見られている分野です。
成果を約束する表現も避ける領域です。「成績が上がります」と言い切る形、「〇〇高校に合格できます」といった断定は、実際にそうならない生徒が存在する以上、根拠を示せません。事実と約束は別物です。「〇〇名の合格実績」といった記載と効果の約束は、区別して書くのが基本になります。
口コミや体験談の扱いにも注意が要ります。2023年10月から、事業者が自らの表示であることを消費者が判別しにくい形で行う広告、いわゆるステルスマーケティングが景品表示法上の不当表示として規制されています。保護者に謝礼を渡して口コミを書いてもらう、関係者のレビューを一般の声として掲載するといった運用は、この論点に触れます。
広告からつながる申込ページ側にも、確認しておきたい点があります。学習塾は特定商取引法上の特定継続的役務提供に該当する場合があり、消費者庁の解説では、期間が2カ月を超え、かつ金額が5万円を超える契約が対象とされています。該当すれば、契約前の概要書面と契約時の書面の交付、クーリング・オフ、中途解約の扱いといった義務が生じます。広告そのものというより申込フォームや料金ページの整備の話ですが、広告で集めた先が整っていないと、後からの手戻りが大きくなります。
6. 学習塾の広告運用でつまずく点:講習ページの出しっぱなしと予算上限
実務でよく詰まる箇所を挙げておきます。
1つ目が、講習ページの出しっぱなしです。夏期講習の受付が終わったのに広告が動き続け、申込を締め切ったページに人を送っている。これは事故です。季節商材を扱う以上、キャンペーンの終了日は最初に入れておくのが安全です。
2つ目が、山の時期に予算上限で止まっている状態。2月や7月は競合も予算を厚くするのでクリック単価が上がり、同じ日予算でも取れる量が減るため、山の期間だけインプレッションシェアを見て、予算による損失が出ていないか確認してください。
3つ目が、広告文の宛先がずれているケースです。生徒に向けた言葉で書かれた広告を、保護者が読んでいる。保護者が知りたいのは費用の目安、通塾の曜日と時間、送迎のしやすさ、講師の体制といったあたりで、「楽しく学べる」だけでは判断材料になりません。
電話問い合わせの計測漏れも起きがちです。塾への問い合わせは電話も多く、これを数えていないと成果を過小評価します。少額での回し方は「少額予算でGoogle広告は成果が出るか」も参考になります。
ここまでの内容は、教室を回しながらでも手を付けられるものです。ただ、季節の山は年に3回しか来ません。今年の2月に取りこぼした分は次のやり直しまで1年待つことになるので、山が来る前の谷の時期に、いまのアカウントが何を数えていて予算がどこに流れているかを一度整理しておくと、次の山の打ち手が変わります。自分たちだけで判断がつかないなら、外の実務者の目を一度通す方法もあります。
※ 次の講習期までに整えておきたい方へ ― 診断レポートのサンプル(無料)で、どこまで見えるかをご確認ください。
よくある質問
Q. 閑散期は広告を止めてしまってよいですか?
A. 配信をゼロにするのは避けたほうが無難です。理由は2つあり、自動入札を使っている場合は学習が途切れて再開時の立ち上がりが鈍ること、そして閑散期にも転塾や引っ越しによる検索は一定数あることです。予算を絞って細く回し、成果が出ている語だけ残すという形なら、月数万円でも維持できます。止めるとしても、指名検索だけは残しておくと取りこぼしが減ります。
Q. 教室が1つだけの個人塾でも、リスティング広告は成立しますか?
A. 成立している例はあります。商圏が狭いぶん検索数の上限は低いので、月に数万円の予算でも競合と同じ土俵に立てるからです。ただし新規で埋めたい席数が月に2席か3席という規模だと、CV数が少なすぎて自動入札の判断材料が足りません。この規模なら手動でクリック単価を管理し、語を絞って運用するほうが扱いやすくなります。教室の看板や口コミと合わせて、広告は補助的な入口として位置づける考え方が現実的です。
この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。
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