競合が自社名で広告を出している。仕組みと商標での対処、防衛出稿の判断
自社の社名やサービス名で検索してみたら、検索結果の一番上に表示されたのは競合他社の広告だった。自社サイトはその下。人によっては、広告文の中にこちらの社名までそのまま使われていて、初めて気づいたときの不快感は相当なもので、「これは違法ではないのか」「Googleに通報すれば消せるのか」という相談を受けることは珍しくありません。
感情としては納得しがたいのですが、他社名をキーワードにして広告を出すこと自体は、媒体のルール上、原則として止められていません。例外は広告文です。商標登録済みの名称が広告文の中で使われている場合は、申し立てで制限できる余地があります。分けて整理します。できること、できないこと、やらないほうがよいことの3つです。なお、この記事は制度の一般的な説明であって法的助言ではないので、権利侵害の主張など法的な判断を伴う対応は、弁護士や弁理士への相談を前提にしてください。
この記事の要点
- 他社の名称をキーワードにした出稿は、Google広告の商標ポリシー上、原則として調査・制限の対象にならない(2026年8月時点)
- 商標登録済みの名称が広告文で使われている場合は、商標所有者からの申し立てで制限できる可能性がある
- 対処の順番は、事実確認→証拠保存→申し立て→防衛出稿の損得計算。感情での報復出稿は最後まで避ける
- どの程度奪われているかは、オークション分析とインプレッションシェアの数字で把握できる
1. なぜ競合は自社名で広告を出せるのか
Google広告の商標ポリシーは、2026年8月時点で、商標が「キーワードとして」使われることを調査や制限の対象にしていません。ポリシーが対象とするのは広告文など広告の中での商標の使用であって、どのキーワードに入札するかには介入しない、という建て付けです。つまり競合が「〇〇社」というキーワードに入札し、自社名を含まない広告文で配信することは、媒体ルールの範囲内で成立してしまいます。Yahoo!広告もおおむね同様です。制限の対象は広告文であり、キーワードは申請による制限の対象外とされています。ただし、キーワードの自動挿入機能を使って作られた広告文の場合は、挿入されたキーワードも商標の使用制限の対象に含まれる点が異なります。
| 競合の行為 | 媒体ルール上の扱い(2026年8月時点) | 自社が取れる対応 |
|---|---|---|
| 自社名をキーワードにして入札 | 原則、調査・制限の対象外 | 防衛出稿、自然検索の強化 |
| 広告文で自社の登録商標を使用 | 商標所有者の申し立てで制限され得る | 商標ポリシーへの申し立て |
| 広告文で未登録の名称を使用 | 商標ポリシー上の申し立ては原則使えない | 誤認を招く内容なら別ポリシーへの報告を検討 |
| 誤認を招く広告表現やリンク先での使用 | 内容により別ポリシーや法令の問題になり得る | 証拠を保存し、弁護士・弁理士に相談 |
では法律上はどうか。キーワードとしての利用が商標権侵害や不正競争にあたるかは、表示のされ方や誤認の有無などによって判断が分かれてきた論点で、国内外で争われた事例があります。「媒体ルール違反ではない=何をしても適法」ではありませんし、逆に「自社名で出された=即違法」でもなく、ここが個別判断の領域で、専門家の出番になります。
媒体がキーワード利用を制限しない理由も知っておくと構図が見え、検索連動型広告は「検索語句に関連する広告枠のオークション」であって、語句そのものの所有権を誰かに認める仕組みではない、という設計思想です。比較サイトや代替品の広告が指名検索に出ること自体は、検索する人の選択肢を増やすという整理でもあり、納得するかどうかは別として、この前提を知らずに媒体へ抗議しても、返ってくるのは定型の案内だけです。
競合側の動機は明快です。指名検索をする人は社名を知っていて比較・購入の直前にいる、いわば最も温度の高い層で、その入口に安く広告を差し込めば検討候補に割り込めます。米国では一般的な手法として定着しており、日本でもBtoBのSaaSや士業、美容医療など競争の激しい分野ほど頻繁に起こります。
2. まず事実確認:どの程度「奪われている」のか
自分で1回検索して見えた画面はオークションのほんの一断面で、検索広告の表示は毎回のオークションで決まり、時間帯・地域・検索した人によって顔ぶれが変わります。たまたま1回出ていただけなのか、常時出ているのかで対処の優先度はまったく違うので、感情が動いているときほど、先に数字を見てください。
確認は3つです。①自社の指名キーワードを含むキャンペーンでオークション分析を開き、どのドメインが同じオークションに参加しているかを見る。②インプレッションシェア(表示機会のうち実際に表示された割合のこと)の推移を月別に見る。③広告文に社名が使われているなら日時の分かる形でスクリーンショットを保存する、この証拠の保存は、後の申し立てでも専門家への相談でも最初に求められるものです。
変化はまずコストに出ます。競合がいなければ数十円で収まることの多い指名キーワードのクリック単価が入札が重なると数倍に上がり、指名のインプレッションシェアが90%台から70%台に落ちる。たとえば30円で買えていた指名クリックが120円になれば、月300クリックを買う費用は9,000円から36,000円へ増えます。金額の水準は商材によって幅がありますが方向はほぼこの2つで、読み方の詳細は「インプレッションシェアの読み方」が参考になります。
被害の中身も分解しておくと冷静になれます。多くの人は下まで見ます。競合の広告が上に出ても、指名で検索した人は目当ての社名のリンクまで視線を下げてクリックします。失っているのは全流入ではなく比較志向の強い一部の層なので、「全部奪われている」という感覚値ではなく、シェアとクリック数の実測で規模を測る意味があります。
月1回の定点観測にします。確認は1回で終わらせないでください。競合の指名入札はキャンペーン的に数週間だけ行われることもあれば恒常的に続くこともあり、オークション分析の重複率が一時的な山なのか高止まりなのかで、後述する防衛出稿の要否も変わります。議題に1行足すだけです。代理店に運用を任せているなら、定例に「指名キーワードのオークション分析」を加えれば足ります。
3. 商標登録済みなら:広告文での使用に申し立てできる
手段が1つあります。自社名やサービス名を商標登録しているなら、Googleの商標ポリシーに基づく申し立てです。商標所有者またはその代理人が専用のフォームから申請し、認められると、他社がその商標を広告文(見出しや説明文)で使うことが制限されます。2026年8月時点でも、制限の対象はあくまで広告文で、キーワードとしての入札は対象外という枠組みは変わっていません。
例外も知っておく必要があります。正規の再販業者や、その商標に関する情報提供を主目的とするサイトなどは、条件を満たせば広告文での使用が認められることがありますが、競合他社が自社製品を売るために他社の商標を広告文に使うケースは、通常この例外にあたりません。申し立てから反映までは審査の期間がかかること、認められた後も競合の広告自体は社名抜きの文面で出続けることは、期待値として持っておいてください。
動く場合の準備物も挙げておきます。準備するものは決まっています。商標の登録番号と登録国、権利者名、そして問題の広告が表示された検索語句・日時・スクリーンショットで、申請は権利者本人か代理人が行う必要があるため、社内の誰が権利者情報を管理しているかの確認から始まることも多いです。国・地域で差があります。取り扱いが変わるため、海外にも配信している場合は対象国ごとの確認が要ります。
商標登録がない名称ではこの経路は原則使えないので、社名やサービス名の商標登録は、広告の防衛という観点からも意味を持ちます。登録すべきか、広告文以外の使われ方(誤認を招くLP=広告のリンク先ページの表現など)にどう対応できるかは、弁理士・弁護士の領分なので、実害が出ているなら早めに相談する価値があります。
4. 防衛出稿するかどうかの判断
申し立てと並行して検討するのが、自社名キーワードに自社で広告を出す「防衛出稿」で、感覚的には「自分の名前に広告費を払うのは癪だ」となりがちですが、これは損得計算の問題です。判断材料は3つ。①指名検索の月間ボリューム、②奪われた1件の価値(商談化率と粗利)、③自然検索の1位で守り切れているか、です。
数字を置いてみます。指名検索が月1,000回あり、競合の広告経由で1割の100回分の流入が奪われているとして、指名経由の商談化率が10%、商談からの受注で1件の粗利が30万円なら、失っているのは月10件の商談の入口です。対して防衛出稿の費用は、クリック単価80円で月300クリック買っても24,000円。失っている10件の商談入口のうち数件が戻り、そこから1件でも受注できれば粗利30万円ですから、月24,000円は十分に釣り合う水準です。守る価値の桁が違うという結論になる会社が多いのはこのためですが、競合の入札が激しく指名クリック単価が数百円まで上がっているなら計算は変わります。出すか出さないかの判断軸そのものは「指名キーワード出稿の判断の分かれ目」で掘り下げています。
見送ってよいケースも書いておきます。自然検索の1位を自社が取っていて、競合広告の見出しが明らかに別ブランドだと分かる内容で、指名のインプレッションシェアも大きく落ちていない。この3つがそろっているなら慌てて出す必要はなく、広告を1本足すより、指名で検索した人が最初に見る自社ページの説得力を上げるほうが費用対効果が高いこともあります。
出すと決めた場合の副産物にも触れておくと、防衛出稿では広告文を自社で握れるため、新サービスやキャンペーンの告知を指名検索の一等地に出せ、守りで始めた出稿が告知枠として元を取るケースもあります。
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5. やってはいけない報復:相手の名前で出し返す前に
「向こうがやるならこちらも相手の社名で出す」、気持ちは分かりますが、実行する前に3つ考えてください。1つ目、相手も同じ手段を持っています。相手が商標登録済みなら、こちらの広告文はすぐ申し立ての対象になり得ます。2つ目、互いに指名キーワードへ入札し合うと、両社の指名クリック単価が吊り上がり、増えた広告費はどちらの売上にもならず媒体に流れるだけの消耗戦になりがちです。3つ目、見え方の問題です。顧客や採用候補者が両社を比較検索する場面で、「他社名で広告を出す会社」という印象は自社が思うより残ります。
報復ではやりません。それでも出すと決めるなら、「比較検討層への露出」という戦略として設計すべきです。具体的には、広告文に相手の名称を使わない、比較を打ち出すなら根拠を用意する、自社の強みが立つ検索語句に絞るというように、自分が申し立てられない形にしてからやる、ということです。
争い以外の道も1つ挙げておきます。業界団体や取引先のつながりがある間柄なら、「広告文での社名使用をやめてほしい」と文書で直接申し入れるだけで、争いにせず収まるケースは実際にあります。相手も炎上や法的リスクを抱えたいわけではありませんが、文面に法的な主張を含めるなら、出す前に専門家の確認を通すのが安全です。
対処の順番をまとめます。事実確認で規模を把握し、証拠を保存し、商標があれば申し立てを出し、防衛出稿は損得計算で決める、逆にやらないほうがよいのは、数字を見ずに憤ることと、感情のまま出し返すことです。競合の指名入札は腹立たしい一方で「自社の指名検索には奪う価値がある」ことの証明でもあるので、守る価値のある資産だと分かったのなら、感情ではなく計算で守ってください。定点観測と証拠の保存までは、社内で回せる作業です。迷いが出るのはその手前で、防衛出稿に月いくらまで払う価値があるのか、いま起きていることが待てば収まる山なのかは、指名を奪われている当事者がいちばん冷静に見にくい部分でもあります。ここは計算を外に出してみる価値があります。
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よくある質問
Q. 商標登録していない社名でも、競合の広告を止められますか?
A. Google広告のポリシー上の申し立ては商標が前提のため、未登録の名称では原則この経路は使えません。広告文の内容が事実と異なり誤認を招く場合には、不実表示など別のポリシーへの報告が考えられますが、確実な手段とは言えません。名称の保護を今後も重視するなら、商標登録の要否も含めて弁理士に相談するのが近道です。
Q. 申し立てが認められれば、競合の広告は表示されなくなりますか?
A. いいえ。制限されるのは広告文の中でその商標を使うことで、キーワードとしての入札は続けられます。つまり自社名で検索したときに競合の広告が出る状態自体は残り得ます。そこから先は申し立てとは別の話で、防衛出稿や自然検索の強化で、検索結果の一番上を自社が取り返せるかという勝負になります。
この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。
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