Cookie規制の現在地:2026年の広告計測への実影響と広告主の対応
「Cookieが使えなくなるから、いずれ広告の計測は全部壊れる」。この数年、そんな話を何度も聞かされてきた方は多いはずです。CMPの営業資料、セミナー、業界ニュース。ところが2024年にGoogleがChromeのサードパーティCookie廃止を撤回し、話が急にトーンダウンしました。結局、何が起きて、いま何をすべきなのか。整理がつかないまま宙ぶらりんになっている広告主が少なくありません。
先に結論の方向を言うと、2026年のCookie規制は「ある日突然の全廃」ではなく「じわじわ欠けていく」局面に入っています。ブラウザ側の規制はSafariを中心にすでに効いており、日本では法規制がむしろ本丸になりつつあります。以下は2026年8月時点で公表されている情報をもとにした整理です。制度も媒体仕様も更新が続く領域なので、日付と出典の性質をなるべく本文中に添えました。慌てて高価なソリューションを入れる前に、事実関係と優先順位を確かめてください。
この記事の要点
- ChromeのサードパーティCookie廃止は2024年7月に撤回され、2025年10月にはPrivacy Sandboxの主要APIも大半が終了と発表された
- 一方でSafari(ITP)やFirefoxは以前からブロックが標準で、日本のスマホ環境では計測欠損がすでに日常的に起きている
- 日本では外部送信規律(2023年6月16日施行)の対象事業者に当たるかの確認が先。2026年7月10日に成立し同月17日に公布された改正個人情報保護法では、課徴金制度の導入が盛り込まれた
- 広告主の実務対応は「同意管理と表記の整備」「1st Partyデータ」「拡張コンバージョン・コンバージョンAPI」の3点に絞ると迷わない
1. ChromeのサードパーティCookieは「残った」:ここまでの経緯
まず事実関係の確認からです。Googleは2020年に「2年以内にChromeのサードパーティCookieを廃止する」と表明し、代替技術としてPrivacy Sandboxの開発を進めてきました。しかし延期を重ねた末、2024年7月には廃止をやめ、ユーザー自身に選択させる新しい方針へ転換すると発表します。さらに2025年4月22日には、Privacy Sandboxの公式ブログで「サードパーティCookieの選択を促す独立したプロンプトも導入しない」と表明しました。つまりChromeは、従来どおり設定画面から変更しない限りサードパーティCookieが有効なままです。
追い打ちをかけるように、2025年10月17日にはPrivacy Sandboxの主要API群、具体的にはTopics、Protected Audience、Attribution Reporting APIなど複数の技術について、採用が進まなかったことを理由に段階的な終了が発表されました(米国の広告業界メディアAdExchangerが同日付で報じています)。同じ報道では、CHIPSやFedCM、Private State Tokensなど一部の技術は維持されるとされています。
この経緯だけを見ると「Cookieは安泰か」と思いたくなりますが、早合点です。Chromeが現状維持になっただけで、他のブラウザと法規制は止まっていません。むしろ日本の広告主にとっての実害は、次の2つのほうがずっと大きいと言えます。
2. SafariのITPは変わらず厳しい:計測欠損はすでに起きている
Appleは2017年からSafariにITP(Intelligent Tracking Prevention)を搭載し、段階的に強化してきました。現在のSafariではサードパーティCookieが標準でブロックされるほか、JavaScriptで書き込まれるファーストパーティCookieの保存期間も最長7日、広告クリック経由の流入では24時間に制限されるケースがあると言われます。GA4や広告タグが使うCookieの多くはこの影響を受けます。
日本はスマートフォンにおけるiPhone比率が高い市場です。ブラウザシェアの統計でも、モバイルではSafariがかなりの割合を占めるとされます。つまり「Cookieレス」は未来の話ではなく、Safari経由のユーザーについてはすでに数年前から起きている現実です。具体的には次のような症状として現れます。
- 比較検討期間が1週間を超える商材で、コンバージョン(CV)の広告への紐付けが切れ、「ノーリファラー」や「Organic」に計上される
- リターゲティングのリスト規模がChrome比で小さくなり、Safariユーザーへの再アプローチが届きにくい
- GA4のセッション計測が分断され、同一ユーザーが別人として数えられる
「最近CVが減った気がするが、受注は減っていない」という現象の一部は、この計測欠損で説明がつくことがあります。媒体の管理画面の数字だけで判断すると、実際より悪く見える点に注意が必要です。
なおFirefoxにも強化型トラッキング防止(ETP)が標準搭載されており、Edgeにも追跡防止機能があります。シェアこそChromeが最大ですが、「規制のないブラウザ」はもう存在しないと考えたほうが実態に合います。自社サイトの訪問者のブラウザ内訳はGA4のユーザー環境レポートで確認でき、Safari比率が高いほど後述の補完計測が効きます。
3. 日本の法規制:外部送信規律と改正個人情報保護法
日本の広告主にとって、ブラウザの仕様変更以上に避けて通れないのが法規制です。押さえるべきは大きく3つあります。
外部送信規律(改正電気通信事業法)
2023年6月16日に施行された改正電気通信事業法の「外部送信規律」は、Webサイトやアプリからユーザーの端末情報を外部へ送信するタグ、つまり広告タグや解析タグ、SNSのシェアボタンなどについて、送信される情報の内容と送信先を「通知または公表」する、あるいは同意を取得する、オプトアウト措置を設けるといった対応を求めるルールです。多くの企業はプライバシーポリシーとは別に「外部送信ポリシー」のページを設けて対応しています。
ここで注意したいのは対象範囲です。総務省の外部送信規律FAQでは、対象となる電気通信役務が4類型(メッセージ媒介、SNS・電子メール・オンラインショッピングモール等、オンライン広告、ニュース配信・検索・地図などの各種情報のオンライン提供)に整理される一方、「自社商品のオンライン販売サイトや、自己の情報発信のために運営する企業ホームページは、外部送信規律の適用対象とはなりません」と明記されています。「広告タグを入れているサイトはすべて対象」ではないので、自社が該当するかは法務と確認し、該当するならタグの棚卸しと表記整備を先に進めます。
個人関連情報のルール(2022年施行の改正個人情報保護法)
2022年4月施行の改正では「個人関連情報」の概念が導入されました。Cookie IDや広告識別子のように単体では個人を特定しない情報でも、提供先で個人データと紐付く場合には、本人の同意が得られているかの確認が提供元に求められます。広告データの外部連携やデータクリーンルーム活用を検討する際に関わってくるルールです。
2026年の改正個人情報保護法
いわゆる3年ごと見直しの議論を経た改正法は、2026年7月10日に参議院本会議で成立し、同月17日に令和8年法律第56号として公布されました。法律事務所の解説記事によれば改正項目は多岐にわたりますが、広告実務に関係が深いのは次の3点です。違反行為に対する課徴金制度の導入、メールアドレスや電話番号のように特定の個人へ働きかけられる情報を「連絡可能個人関連情報」として位置付けたうえでの不正取得・不当利用の禁止、そして16歳未満の個人情報について法定代理人の関与を義務付ける規定です。このほか、顔認証データなどを「特定生体個人情報」として特則の対象にする改正も入っています。施行は罰則関係などの一部規定が2027年1月17日、本体部分は公布から2年以内(2028年7月16日まで)で政令が定める日とされています。細部は今後のガイドラインで詰まっていく段階ですが、「同意や表記の不備が金銭的リスクに直結する」方向へ進んでいることは読み取れます。
4. 広告実務への影響:計測・リタゲ・同意管理はこう変わる
ここまでを広告運用の実務に翻訳すると、影響は3つの領域に分けられます。
計測。Safari中心に欠損が常態化するため、「タグだけで全CVを拾う」前提は捨てたほうが無難です。Google広告なら拡張コンバージョン、Meta広告ならコンバージョンAPI(CAPI)のように、ハッシュ化したファーストパーティデータやサーバー経由の補完計測を併用するのが標準になりつつあります。媒体側も欠損分をモデリングで推計して埋めるため、「実測値」と「推計込みの値」が混ざっている前提でレポートを読む必要があります。第一歩は、GA4・各媒体管理画面・受注台帳の3つを月次で突き合わせ、自社の平常値を把握しておくことです。平常値があると、「管理画面のCV減」が本当の失速なのか計測欠損なのかを切り分けられます。
リターゲティング。サードパーティCookie依存のリタゲはリーチが細り続けています。サイト訪問リタゲ一本足だった構成は、顧客リスト(リストマッチング)、媒体内エンゲージメント(動画視聴者やフォーム開封者など)を合わせた構成へ組み替えるのが現実的です。リタゲのCPAが以前より良く見えるのは、単にリストが濃い人だけに縮んだ結果ということもあります。
同意管理。EU向けにビジネスをしていなければ、日本ではEUのようなCookieバナーが一律に義務というわけではありません。ただし対象事業者に当たるなら外部送信規律の表記義務はすでにあり、2026年改正で個人関連情報まわりの規律が強まる流れを踏まえると、タグの棚卸しと同意管理プラットフォーム(CMP)導入の検討は、少なくとも見積りレベルでは進めておきたいところです。
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5. 2026年にやるべき対応の優先順位
「全部やる」は現実的ではないので、費用対効果の高い順に並べます。
優先度1:計測の土台。Google広告の拡張コンバージョン、MetaのCAPIといった媒体公式の補完計測は、追加コストが比較的小さいわりに自動入札の学習データを直接増やせます。コンバージョンタグが同意状態と整合しているか、二重計測がないかの点検もここに含まれます。
優先度2:法対応の表記整備。まず自社サイトが外部送信規律の対象に当たるかを確認し、当たるなら外部送信先の一覧公表の状況を、当たらない場合もプライバシーポリシーの記載を点検します。ここは広告部門だけで完結せず、法務と連携する領域です。GTMでタグを棚卸しし、「誰も把握していない古いタグ」を消すだけでも前進します。
優先度3:1st Partyデータの整備。メールアドレスや購買履歴など、自社で同意を得て集めたデータは、規制が強まるほど価値が上がります。顧客リストの媒体連携、オフラインコンバージョンの取り込みは、リタゲ縮小の穴埋めとしても機能します。
優先度4:CMPなどツール導入。ツールはあくまで手段です。タグの棚卸しと計測設計が済んでいない状態で入れても、管理対象が増えるだけになりがちです。順番を間違えないことが、遠回りに見えて近道だと考えています。
これらはどれも一度やって終わりではありません。四半期に一度、計測と表記の点検日をカレンダーに入れておく運用が、結局いちばん安上がりです。
6. 「Cookie規制対応」を口実にした提案への向き合い方
最後に少し実務的な注意を。Cookie規制は不安を煽りやすいテーマなので、「今すぐ対応しないと計測が全滅します」型の営業トークと相性が良い領域です。ここまで見てきたとおり、Chromeの廃止撤回とPrivacy Sandboxの縮小で、前提が2〜3年前と大きく変わっています。古い前提のままの提案資料も、正直なところまだ出回っています。
提案を受けたら、「それはどのブラウザの、どの規制への対応か」「法対応と計測改善のどちらの話か」を切り分けて聞いてみてください。この2つに明確に答えられる提案は検討の価値があります。逆に「Cookieレス時代だから」としか説明できない提案は、一度持ち帰って構いません。自社の計測がいまどれだけ欠けているかを先に把握しておくと、この判断は楽になります。
よくある質問
Q. ChromeのサードパーティCookieが残ったなら、もう何も対応しなくてよいのでは?
A. Chromeが現状維持でも、SafariやFirefoxではブロックが標準で、日本はモバイルのSafari比率が高いため計測欠損はすでに起きています。加えて外部送信規律の対象事業者であれば表記対応は施行済みの義務であり、2026年7月17日に公布された改正個人情報保護法では課徴金制度の導入が盛り込まれました。ブラウザ動向と法規制を分けて考えると、やるべきことは残っています。
Q. 日本のサイトでもEUのようなCookie同意バナーは必須ですか?
A. 2026年8月時点では、日本国内向けサイトに一律で同意バナーを義務付ける規定はないと言われます。ただし外部送信規律の対象となるサービスでは広告タグなどの送信先の通知または公表などの対応が必要で、EU圏のユーザーにサービス提供する場合はGDPRへの対応が別途求められます。将来の規律強化に備え、タグの棚卸しとCMP導入の検討は進めておく価値があります。
この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。
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