広告代理店の相見積もりの取り方:依頼に書く情報と、手数料以外の比較軸
「3社から提案をもらったんですが、正直どれも良さそうに見えて決められません」。代理店選定の相談でこの台詞は本当によく聞きますが、並んだ提案書はどれも立派で、実績のロゴが並び、改善イメージのグラフは右肩上がり。決め手を探した結果、唯一比べやすい数字である手数料率で選ぶ。この選び方は、後悔する契約の典型的な入り口です。
質は依頼文で決まります。相見積もりは、届いた提案を見比べる段階ではなく、見積りを依頼する文面を書く段階でほぼ決着します。渡す情報が薄ければ各社はテンプレートの提案しか出せずテンプレート同士は比べようがない一方、判断に必要な情報を揃えて渡せば、提案は自社のための設計図になり、各社の実力差がはっきり見えてきます。分かれ目は、依頼文にこの1行があるかどうかです。「成果地点は問い合わせフォームの送信、許容CPAは1万5,000円、月間30件が目標です」。
この記事の要点
- 相見積もりは3〜4社に絞り、全社に同じ依頼文を渡す。依頼文には予算・目標・現状データ・条件の4種の情報を書く
- 手数料率の差より運用の質の差のほうが金額インパクトは大きい。比較軸は体制・レポート・契約条件まで広げる
- 現アカウントのデータ開示は「集計値→画面共有→読み取り専用権限」の3段階で考える
- 提案書の目利きに自信がなければ、契約前に外部の実務者に見てもらう手がある。乗り換え自体をやめて現体制継続という結論も含めて検討できる
1. 依頼の前に:社数は3〜4社、条件は全社同一
最初に器の話です。社数は3〜4社です。声をかける相手の実務的な上限がここになります。1社ずつ商談1〜2回とやり取りが発生するため、5社を超えると選定側の工数が破綻して後半の商談ほど検討が雑になりますが、候補に性格の違う相手(大手、専業の中堅、少数精鋭など)を混ぜると、比較から学べる量が増えます。候補の集め方は、同業や取引先からの紹介、比較サイト、検索の3経路が定番ですが、紹介1〜2社に検索や比較サイト経由を1〜2社混ぜる構成が、視野の偏りを防ぎやすい組み合わせです。紹介だけで固めると断りにくさが選定を歪め、検索だけで集めると広告がうまい会社に偏ります。
そして依頼文・依頼条件は全社に同一のものを渡します。A社には口頭でふわっと、B社には資料付きで詳しく、では提案の質を比べているのか渡した情報の質を比べているのか分からなくなり、ここが崩れた相見積もりは形式だけの儀式になりがちです。
日程も先に引いておきます。目安として、依頼から提案受領まで2〜3週間、商談と比較検討に3〜4週間、合計6〜8週間が無理のない線で、提案の準備期間を1週間しか与えないと、どの会社もテンプレートで返すしかなくなり比較の意味が薄れます。現契約からの乗り換えなら、これに解約予告期間(1〜3カ月の設定が多い)を足した逆算で開始時期を決めてください。
2. 見積依頼に書くべき情報:この4種で提案の質が変わる
| 情報 | 書く内容の例 | これがないと起きること |
|---|---|---|
| 予算 | 月額広告費の想定レンジ(例:月80万〜120万円) | 各社が別々の予算前提で提案し、比較不能になる |
| 目標 | 成果地点の定義と許容CPA、月間の目標件数 | 「認知も獲得も」の総花的な提案が返ってくる |
| 現状データ | 直近6〜12カ月の月別の広告費・CV数・CPA(集計値) | 現状分析のない、どの会社にも出せる汎用提案になる |
| 条件 | アカウント名義は自社、最低契約期間の希望、レポートと定例の頻度 | 契約段階で条件が食い違い、選定がやり直しになる |
分かれ目はCPAです。目標のところで、CPA(CV1件あたりにかかった広告費)の許容額を書けるかどうかで提案が変わります。コンバージョン(CV、問い合わせや購入などの成果地点のこと)1件からいくらの粗利が生まれるかを添えられれば、まともな代理店ほど提案の精度が上がります。逆にここが「なるべく安く」しか書けない状態なら、選定の前に自社の数字の整理が必要というサインです。
現状データの整え方は簡単です。管理画面のレポート機能で直近6〜12カ月の月別実績を書き出し、月・広告費・CV数・CPAの4列に整えるだけ。現代理店のレポートからの転記でも構わず、ここで数字を整えておくと、届いた提案のシミュレーションが現実的かどうかを測る物差しにもなります。自社の直近CPAが1万5,000円なのに、根拠なく8,000円の見込みを出してくる提案は、その時点で読み方が変わるはずです。
条件面では、アカウントの名義と権限を自社が持つことを依頼文の段階で明記してほしく、ここで渋る会社を早期に除外できるだけで相見積もりの価値の半分は回収できます。契約書で見るべき落とし穴は「契約書チェックの記事」にまとめています。
依頼文はA4で1枚あれば足ります。構成の例を挙げると、①会社と商材の概要(3行)、②現状(媒体、月別実績の別紙参照)、③目標(成果地点の定義と許容単価)、④条件(名義・権限、契約期間、レポート頻度)、⑤スケジュール(提案期限と決定日)。立派な資料である必要はまったくなく、むしろ簡素な1枚に必要な数字が揃っているほうが、受け取る側の運用者には誠実に映ります。
3. 比較する軸:手数料の差は、運用の差より小さい
手数料率は比べやすいのでつい主役になりますが、金額に換算すると率の差は意外と小さいのです。月100万円の広告費で手数料20%と15%を比べると差は月5万円、年間60万円で、無視できる額ではありませんが、運用の質の差はこれを上回ります。同じ月100万円の予算でも、CPA2万円で回す運用なら月50件、CPA2万5,000円の運用なら月40件で、件数にして月10件、1件の粗利が3万円なら月30万円、年間360万円の差です。手数料の年間60万円差の6倍です。比べるべきは手数料率ではなく、この差を生んでいる運用の中身のほうです。
比較軸は4つです。少なくともこれだけは持ってください。①体制(誰が実際に運用するのか。営業と運用者は別か、担当は何社を掛け持ちか)、②レポートと定例の中身(見本を出してもらう)、③契約条件(最低契約期間、解約予告、名義と権限、成果物の帰属)、④手数料。手数料相場の分解は「手数料相場の記事」に譲りますが、順序として④は最後です。
①の体制は、商談で具体的に踏み込んで聞きます。「私たちの担当運用者は、何社を並行して受け持ちますか」「商談に出ている方と、実際に運用する方は同じですか」「運用者に直接質問できる場はありますか」。営業と運用の分業自体は普通のことですが、商談の顔と運用の顔の距離が遠い会社ほど契約後の落差は大きくなりがちで、回答を各社で表にして並べると、提案書の印象とは別の序列が見えてくることがよくあります。
4. 提案の質の見分け方:見るのは絵の美しさではなく問いの質
要るのは観察です。提案書の目利きには、広告の専門知識より見るべき点の把握が効きます。第1に、こちらが渡した現状データへの言及があるか、数字に一切触れず一般論と実績自慢で構成された提案はテンプレートの可能性が高いです。第2に、商談で受けた質問の質です。事業の粗利構造、営業プロセス、過去に試した施策、ここを聞かずに見積りを出せる会社は、運用も同じ精度でやると考えて差し支えありません。第3に、リスクの説明があるか。立ち上げ期の学習で成果が不安定になる話や、目標達成の不確実性に触れない提案は、受注後の期待値調整で苦労します。
シミュレーションの数字にも1つ物差しを。現状のCPAより大幅に良い数字を根拠の説明なしに約束してくる提案は割り引いて読むもので、運用者を替えただけで成果が3割改善する魔法は普通はありません。改善の絵を描くこと自体は健全ですが、「何をどう変えるとその数字になるのか」の因果が書かれているかどうかが実力と誇張の分かれ目で、提案書は受注前が一番豪華になる文書だという前提で読んでちょうどよいと思います。
危険信号はこの逆です。相場より突出して安い手数料、その場での即決を迫る営業、成果の断定的な約束、この種の兆候は「危ない代理店の見分け方」で詳しく扱っています。
2社が同点で並んだときの決め方も用意しておくと迷いません。1つは初期契約を短くする交渉です。最低契約期間を3カ月程度に抑えて小さく始め、実運用を見てから本契約に進む。もう1つは選定に関わる目を最初から2人以上にしておくことで、商談の印象は担当者の相性に引きずられやすく、1人の直感で決めた選定ほど振り返りが利きません。
ただ、ここまでの見分け方には限界が1つあります。提案書に因果が書かれているかどうかは読めば分かりますが、その因果が自社のアカウントで成り立つかどうかは、いまの中身を知らないと判定できません。「キャンペーンを統合して学習を集中させます」という提案が妥当かどうかは、いま何本のキャンペーンがどんな理由で分かれているかを知っている人にしか答えられない。提案の目利きは、現状の目利きとセットでなければ働かないのです。
※ 提案を選ぶ前に、そもそも今のアカウントのどこに改善余地があるかを把握しておきたい方へ ― 実際の診断レポートのサンプル(無料)で、外部チェックで分かる範囲を確認できます。
5. 現アカウントのデータをどこまで開示するか:3段階で考える
相見積もりで悩ましいのが、まだ契約していない相手に管理画面をどこまで見せるかです。開示は3段階で考えると整理できます。第1段階は集計値の共有。月別の広告費・CV数・CPAを表にして渡すもので、依頼文に載せるのはこのレベルで十分です。第2段階は商談での画面共有。深い提案が欲しい最終候補2社程度に絞って行います。第3段階は読み取り専用(閲覧のみ)権限の付与で、契約直前の最終確認に限定するのが安全であり、編集権限を契約前に渡す理由はどの段階でもありません。
開示で迷ったら「この情報が競合に渡ったら困るか」を物差しにしてほしく、検索語句や顧客リストに近い情報ほど慎重に、集計値は比較的軽く、が原則で、秘密保持の一筆を交わしてから第2段階以降に進む会社も増えています。
最後に、選定そのものを補強する方法を1つ。集まった提案書を利害関係のない外部の実務者に見てもらうやり方があり、提案の実現性や見積りの妥当性は、日常的にアカウントを見ている人間なら短時間で当たりがつけられます。現アカウントの診断と合わせれば、「そもそも乗り換えるべき状態なのか、今の代理店に改善依頼を出せば済むのか」から検討できます。診断は閲覧のみの権限で完結するので、選定と並行して静かに進められますし、結論が現体制の継続になっても失うものはありません。乗り換えの判断材料は「乗り換え前に確認すべき5つ」も参考にしてください。
相見積もりは安い会社を探す作業ではなく、自社の要件を言語化して市場に問う作業で、直近6カ月の広告費・CV数・CPAを1枚の表にまとめ、4種の情報を依頼文に落とす。広告の知識がなくても、社内だけで終わる作業です。終わらないのは、返ってきた提案が自社のアカウントに対して妥当かどうかの判定で、提案を読む力といまの管理画面を読む力は別ものですし、後者は選定期間の数週間では身につきません。だから最後の判定だけは、どの候補にも属さない運用者の目を1つ通してください。提案を出した側が自分の提案の妥当性まで保証する構造のままでは、結局のところ比べられるのは手数料の数字だけになります。
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よくある質問
Q. 相見積もりを取っていることは、各社に伝えるべきですか?
A. 伝えるのが得です。他社と比較されている前提のほうが、提案の手抜きが減り、条件も現実的になります。社名まで明かす必要はなく、「3〜4社に同条件で依頼している」「決定は◯月末」の2点で足ります。今の代理店から乗り換える選定の場合は、現契約の解約予告期間を先に確認してから動くと、スケジュールの板挟みを避けられます。
Q. 現状データを渡すと、そこから営業攻勢が強くなりませんか?
A. 集計値レベルの開示で営業が過熱することは、あまりありません。むしろデータを渡したのに提案がそれに触れてこない会社をふるい落とせる効果のほうが大きいです。連絡が過剰な会社には「選定期間中のやり取りは窓口1本・週1回まで」と最初に線を引いておくと、その線を守れるかどうか自体が運用の規律を測る材料になります。
Q. 手数料の値引き交渉はしてもよいのでしょうか?
A. 交渉自体は普通のことですが、率の値引きより中身の調整を勧めます。手数料は運用工数の対価なので、率だけ下げれば、見えないところで工数が削られる構造だからです。「レポートを簡素にする代わりに率を下げる」「定例を隔月にする」のように、削る作業とセットで交渉すると、契約後の品質劣化を避けながら費用を抑えられます。
この記事の執筆者:アドサプリ運営チーム(運営:ライムクロス株式会社)。現役の広告運用者が、月次の広告アカウント診断「アドサプリ」を提供しています。
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